子ぎつねヘレン

2006/01/13 松竹試写室
映画のタッチは子ども向けだが作りは丁寧。
2006年最初に泣いた映画がこれ。by K. Hattori

 親からの愛情に恵まれず寂しい思いをしていた少年が、道端で1匹の子ぎつねを拾う。その子ぎつねは、目が見えず、耳も聞こえないという障害を持っていた。獣医の「まるでヘレン・ケラーだ」という言葉にちなみ、ヘレンと名付けられた子ぎつねと少年との交流が始まる。体が大きく丈夫になれば、ヘレンは手術を受けて治るかもしれない。せっせとミルクや肉を与えて子ぎつねの世話をする少年だったが、ヘレンの治療を依頼された獣医大学の出した結論は……。

 芝居の世界では「子供と動物には勝てない」と言うそうだが、これは子供と動物が主人公になった無敵のファミリー映画だ。映画の内容や描写は子ども向けに考慮されている部分も多い。物語はシンプルだし、人物描写も明確で、難しいところはひとつもない。あちらこちらにファンタジー風の味付けがしてあって、リアリズムの世界から自由自在におとぎ話の世界に飛び出していくようなところもある。こうした工夫によって、子ぎつねと心の交流を持つ少年の気分が、ダイレクトに伝わってくる映画になっているのだ。映画は確かに子ども向けではあるが、かといって子供だましに見えないところがいい。どこも手を抜かずに、丁寧に物語世界を作り上げている。

 原作は北海道の獣医・竹田津実のノンフィクション「子ぎつねヘレンがのこしたもの」だが、映画は主人公を獣医から少年に変更するなど、かなり自由な翻案をしている。脚本は『パコダテ人』『風の絨毯』の今井雅子。監督は長年フジテレビのドラマを演出し、今回が本格的な映画監督デビュー作となる河野圭太。映画になってもテレビ的な絵作りに終始してしまうテレビ出身監督も多いが、この映画は北海道ロケの雄大な景色を要所で効果的に使っている。その頂点は、少年が自分の分身とも言える子ぎつねの死を、たったひとりで受け止めるクライマックスだろう。

 ここにある感動は、「死ぬなんてかわいそう」といった簡単なものではない。小さな命を精一杯生きた子ぎつねの姿と、それを正面から見つめながらいつの間にか一歩大人へと成長していく少年の対比。広い世界の中で、子ぎつねと少年がふたりぽっちで刻んできた時間の重み。しかしそれは風の中に吹き飛ばされてしまいそうな、はかなくちっぽけなものでしかない。そんな少年の姿を見つめる家族もまた、ひとつにまとまり新しい一歩を踏み出すための力を得る。それらがすべて一体となって、このクライマックスの感動を作り出している。

 これで泣けるか? 泣けるとも! 僕はここでポロポロ泣いてしまった。

 最近の松竹映画では、ファミリー向けの良質なエンターテインメントがひとつの路線として定着しつつあるような印象も受ける。実在した盲導犬の一生を描いた『クイール』や、遠隔操作のロボットで引きこもりの子供が友だちを作る『HINOKIO ヒノキオ』、そしてこの『子ぎつねヘレン』はその最新作というわけだ。

3月18日公開予定 丸の内ピカデリー2ほか全国松竹東急系
配給:松竹
2005年|1時間48分|日本|カラー
関連ホームページ:http://www.helen-movie.jp/
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