PROMISE

2005/12/22 ワーナー映画試写室
自ら選んだ運命に翻弄される人間たちの悲劇。
中・日・韓の豪華キャストが共演。by K. Hattori

 『さらば、わがが愛/覇王別姫』や『始皇帝暗殺』のチェン・カイコー監督が、豪華キャストと、スケールの大きなセットやロケーション撮影、そして最新のデジタル技術を駆使して作った歴史スペクタクル風のメロドラマ。物語の舞台は「アジアのどこかで、未来における3000年前」だそうで、ここに登場する人物やエピソードに実際の歴史とつながるものはない。たぶんこの映画に影響を与えているのは『ロード・オブ・ザ・リング』に代表される、架空世界を舞台にしたファンタジー作品だろう。

 映画の製作スタイルは、ピーター・ジャクソンの『ロード・オブ・ザ・リング』と同じだ。架空の世界の架空の歴史を作り、そこに国際的なキャストを配置する。ロケーション撮影で雄大な風景をふんだんに盛り込みつつ、それで足りない部分はCGで補い、これまで誰も観たことのない映像を作る。しかしこの映画、ぜんぜん新鮮味がないのだ。これはもう、デジタル処理の精度が粗いとか、そういった技術的な話以前の事柄。映画を観ていると、その元ネタとおぼしき別の映画がどうしても浮かんできてしまう。光明将軍が森の中で満神から王殺しの予言を受ける場面は、明らかに黒澤明の『蜘蛛巣城』に影響されているはず。雪国人の鬼狼が仲間を裏切り黒装束の殺し屋になるのは、『スター・ウォーズ』シリーズのダースヴェイダーを連想させる。勝利した光明が兵士たちに胴上げされる場面は、なんとバズビー・バークレーのミュージカル映画だ。

 大国の興亡がかかったスケールの大きな話として始まった物語が、どんどん小さな男女の悲恋ドラマに閉じていく尻すぼみのストーリー展開。最後に主人公が時空を超えてその閉塞を突破するのかと思わせて、肝心なその結末は伏せてしまうのも拍子抜けだ。もっともこうして歴史を個人の挿話へと還元してしまうのは、中国文化のひとつのあり方なのかもしれない。まず「個人」ありきで、その延長に「歴史」を見るのが中国人。まず「歴史」ありきで、その中に「個人」を見る日本人。しかし出発点は違っても、歴史と個人の両方がきちんと描かれてさえいれば、結果として中国も日本も区別はなくなってしまうはずではないか。この映画が物足りなく感じられるのは、結局のところ歴史も個人もまったく形になっていないからではないだろうか。

 香港からセシリア・チャン、韓国からチャン・ドンゴン、日本から真田広之が参加し、さらに香港の若手ニコラス・ツェー、中国のリウ・イェなど、国際的なキャストが集結。複数の登場人物に対し均等にエピソードを割り振り、それぞれの運命を均等に描いていく構成だが、これは結果として、中心になる人物のいない平板な物語になってしまったようにも思う。基本的にはセシリア・チャン演じる傾城をめぐる三角関係のドラマなのだから、それを軸にして話を整理していけば、もっと面白い映画にまとまったのではなかろうか。

(原題:無極)

2月11日公開予定 松竹東急系
配給:ワーナー・ブラザース映画
2005年|2時間1分|中国、香港、日本、韓国|カラー
関連ホームページ:http://www.promise-movie.jp/
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