トゥルーへの手紙

2005/08/10 東芝エンタテインメント試写室
9.11後の世界について語る長編ドキュメンタリー映画。
監督は人気写真家のブルース・ウェバー。by K. Hattori

 チェット・ベイカーのドキュメンタリー映画『レッツ・ゲット・ロスト』など、過去に何本もの映画を撮っている写真家ブルース・ウェバーの最新映画。9.11テロによって世界がどう変わり、なにが変わらなかったのかを、ウェバー自身が愛犬トゥルーに語りかけるという趣向のドキュメンタリーだ。ただしこれは普通のドキュメンタリーというより、映像と音楽で綴られる一人称の映像エッセイとでも言った方がいいのかもしれない。人間が犬に手紙を書くという映画のために作られた虚構の枠組みがまず存在し、その中に作者であるウェパーのナレーションや、友人たちのインタビュー、写真、映像、映画の引用などが散りばめられている。

 外見には「犬の映画」という愛らしい意匠をまとっているが、中身はかなりシリアス。生と死、平和と暴力、愛と憎しみ、個人と国家、政治と人間、希望と絶望など、幾つもの大きなテーマが語られている。ただしその描き方はさりげない。その場で語るべき小さなエピソードを通して、テーマは間接的に提示される。エピソードは常にナレーターであるブルース・ウェバー経由で紹介され、視点は映画の最初から最後まで決してぶれない。多彩なテーマを映画に持ち込みながら、映画全体がひとつにまとまっているのは、映画全体をブルース・ウェバーという強力な個性が支配しているからだろう。観客は映画の中で、ブルース・ウェバー個人の視点と思考を疑似体験する。断片的に紹介される数々のエピソードのつながりから、ブルース・ウェバーという語り手の個性が立ち上がってくる。

 映画はエピソードがとりとめなく連続しているようなユルユルの印象もあるが、これはこれでかなり緻密に構成されているようだ。ある部分のナレーションがしばらくたってから別の映像や映画の引用を引っ張りだすきっかけになったり、引用された映像がまた別の部分に遠回しの影響を与えたりしている。ストーリーというものがないし、具体的な何かを論証したり主張したりする映画ではないため、こうした映画の構成の意図がわかりにくくはあるのだが、これを分析し始めるとそれなりに分析しがいのある映画に違いない。映画をかなり長く引用したり、ニュース映像や有名な演説を長々と引用しても全体の印象がバラバラにならないのは、全体の構成がきちんと考えられているからだと思う。

 かなり社会的な視点を持った映画ではあるのだが、そう小難しく考えることなく、単なる犬好きの独り言のようなものだと受け止めることもできる作品だ。映画から伝わってくることの半分は社会的なウンタラカンタラなのだが、残りの半分は「犬が好き!」ということにつきる。タイトルにもなっているゴールデン・レトリバーのトゥルーを始め、映画にはいったいのべ何匹の犬が登場しているのだか数えきれないほどだ。犬好きは必見。ここには作り物でない犬と人間の暮らしが記録されている。

(原題:A letter to True)

9月公開予定 シネマライズ
配給:キネティック
2004年|1時間18分|アメリカ|カラー|ヴィスタサイズ|DOLBY SR、SRD
関連ホームページ:http://www.alettertotrue.com/
DVD SpecialShop DiscStation 7dream_88_31 TSUTAYA online
ホームページ
ホームページへ