星になった少年

Shining Boy and Little Randy

2005/07/09 イイノホール
実話をもとにしたドラマだが作りがちょっと甘い。
タイの場面はいいんだけど……。by K. Hattori

 『誰も知らない』でカンヌ映画祭の最優秀男優賞を受賞した柳楽優弥の新作は、日本人で最初の象使いになりながら、志半ばで夭折した少年の伝記映画だ。物語の大筋は実話に基づいているようだが、人名その他が微妙に変更されてしまうのは日本の「実話映画」の常だろうか。モデルになったのは坂本哲夢だが、映画ではそれが小川哲夢という名になっている。もちろんこうして映画にフィクションの皮膜を一枚加えることで、物語が現実から自由になれるというメリットがある。しかし映画冒頭で「これは実話をもとにしています」と断り、劇中に何度か具体的な日付を入れるくらいなら、もっとギリギリまで実話のエピソードや日時にこだわってもよかったんじゃないかな〜。

 映画の予告編でもテレビスポットでも、主人公がタイの象使いの学校に行く場面が盛んに紹介されている。じつはこの映画で一番面白いのは、このタイの場面なのだ。象使いになることを夢見てタイに渡った哲夢だったが、最初の思惑とは大違いで、象使いへの道は厳しい。言葉の壁、文化の違い、そしてなにより、日本では象の言葉が聞こえたのに、タイではちっとも象の気持ちがわからない。象と心を通わせることができず悩み続けた哲夢が、やがて象と打ち解け、一人前の象使いになって日本に帰っている……。しかしこの時点で映画はまだ半ばだ。ここは中盤の山場として、後半にはこれ以上のクライマックスがなければならない。しかし残念ながら映画はここから先に、これといって面白いエピソードや感動的な場面を作れないまま終わってしまう。

 へんな構成の映画だな〜、と思う。この映画の中では主人公の哲夢がタイで象使いとして一人前になると同時に、人間的にも大きく成長しているという設定だ。必然的に、ここに大きなクライマックスが来てしまう。風景の良さもあるのだが、ドラマとしても映画の中でもっとも面白くなるのは当然なのだ。タイに行く前はまだ子供だった主人公は、タイで大人になって帰ってくる。帰国後に彼と両親との衝突も多くなるのはそのためだ。ここで家族内に大きな葛藤が発生するのだから、主人公たち家族がそれを乗り越え、さらに結束を固めてもう一段大きく成長する姿を描けると、この映画終盤のクライマックスとなっただろう。でもこの映画に、そうした最後の山場はない。

 主人公の死は確かに悲劇だが、彼が若くて死んで可哀相というだけでは、残念ながら僕は泣けない。悲劇を悲劇として描くには、もっと工夫が必要だと思う。蒼井優演じる恋人など、映画にまったく何の貢献もしていないではないか。こんな人物を出してくる暇があったら、もっと「家族」の話を描くべきだし、映画全体の構成だって再検討してみるべきだった。哲夢の夢と、哲夢の死。観客の紅涙を絞る悲劇の材料は揃っている。この映画はその見せ方がイマイチなのだ。

7月16日公開予定 有楽座ほか全国東宝洋画系
配給:東宝
2005年|1時間53分|日本|カラー
関連ホームページ:http://www.randy-movie.com/
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