メタリカ:真実の瞬間

2005/06/10 メディアボックス試写室
メタリカのレコーディング風景を撮影するはずが……。
見応えのある人間ドキュメント。by K. Hattori

 双子山親方の死後に持ち上がった貴乃花親方と兄である花田勝(元横綱・若乃花)の確執が、テレビのワイドショーや週刊誌で連日話題になっいてる。以前から仲が悪いとか確執があると報じられてはいたものの、まさかこれほど険悪な関係になっていたとは……というのが、普通の人たちの一般的な感想ではないだろうか。「気心の知れた仲」であればこそ、互いの感情がもつれてこじれ始めると、取り返しの突かないことになる。本人たちにとってそれはとても不幸なことだが、赤の他人から見るとこれほど面白いものはない。

 この映画『メタリカ:真実の瞬間』は、アメリカの人気ロックバンド“メタリカ”のメンバー間で発生した確執を、アルバムのメイキングを撮影するためその場に居合わせた撮影隊が、余すところなく記録したドキュメンタリー映画だ。撮影が始まった2001年、メタリカはギクシャクしたメンバーの関係を修復してニュー・アルバムをレコーディングするため、マネージャーが雇ったセラピスト同席で準備を始めた。だがこれに反発して、ベーシストのジェイソン・ニューステッドがバンドからの脱退を決める。レコーディングはプロデューサーのボブ・ロックがベースを演奏して続行されるが、今度はボーカルとギターのジェームズ・ヘットフィールドが、アル中治療のためスタジオから消えてしまう。こうなるとニュー・アルバムのレコーディングどころではない。メタリカは結成から20年にして、解散の危機を迎えてしまうのだ!

 ニュー・アルバムのプロモーション風景から映画が始まるので、映画を観る人たちはバンドが危機を乗り越えてアルバムを完成させたことをあらかじめ知っている。ここに描かれているバンドの危機は、あらかじめ解決することが約束された危機だ。メタリカのファンなら映画を観る前からこの結末を知っているわけだから、「はてさてバンドの運命や如何に!」などと危機感を煽るより、こうしてファンが知る風景から過去に戻るという構成を取ったことは正解だと思う。

 映画をユニークな存在にしているのは、バンドと共に常にセラピストがいるという状況だ。セラピストのフィル・トウルはメンバーの不仲の原因を彼ら自身に自覚させるため、普通なら目を背けたり見ないふりをする問題点にあえて目を向けさせ、時にはメンバー間の対決を煽ったりもする。セラピストを交えた家族や元メンバーとの対話を通して、メタリカというバンドの過去と現在がくっきりと描き出されていくのだ。

 最後は和解に終わるとわかった上で、メンバー同士の葛藤を観るのは面白い。ここではどんなに辛く手厳しい言葉のやりとりも、最後の和解を盛り上げる材料になっている。他人の喧嘩を観るのは面白いが、それがあまりにも残酷で醜いものになると、人はそこから目を背けたくなってしまう。しかしこの映画にあるのは、雨降って地固まるハッピーエンドだ。

(原題:Metallica: Some Kind of Monster)

8月上旬公開予定 シネクイント、テアトル梅田ほか
配給:パラマウント・ホーム・エンタテインメントジャパン
2004年|2時間21分|アメリカ|カラー|ビスタ|ドルビーデジタル
関連ホームページ:http://www.somekindofmonster.com/
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