DMZ非武装地帯

追憶の三十八度線

2005/06/09 東映第1試写室
朴大統領暗殺直後に起きた南北朝鮮国境の緊張。
監督自身の自伝的な内容らしい。by K. Hattori

 小説家でもあるイ・キュヒョン監督が、自分自身の軍隊経験をもとに書いた小説を自ら脚色・監督した作品。1979年10月26日に韓国の朴正煕大統領が側近に暗殺され、韓国では以後49日間大統領不在という政治的空白が生じた。これを韓国の体制が崩壊する予兆と判断した北朝鮮は、軍事境界線を超えて特殊部隊を韓国に送り出した。かくして境界線を警備する捜索隊と北朝鮮コマンドとの、激しい戦闘が始まるのだが……。

 映画は国境線における韓国・北朝鮮の小規模な軍事衝突をクライマックスにしているが、それは全体の中ではごくわずか。映画の中盤までかなりの時間をかけて描かれるのは、境界線をはさんで向かい合う両軍兵士たちの日常だ。主人公のキム・ジフン一等兵は、大学で映画を学んでいたという設定で、これはそのままイ・キュヒョン監督の分身だ。映画はこのキム一等兵の視点で、1970年代末の軍隊生活を事細かに再現していく。

 前線の基地に「ホテル・ココナッツ」という名前をつけて、北朝鮮に向けて外国のレコードをかけ、料理や日光浴に余念がない兵士たち。最前線のピリピリした雰囲気の中にも、笑いが絶えないのんびりした毎日だ。北朝鮮の兵士と韓国の兵士は敵対していても、本音ではお互い戦争になることを願っていない。望むべきは現状維持だ。しかし朴正煕大統領暗殺という事件が、そんな平穏な日常に亀裂を生じさせる。

 僕は映画を観ながら、劇中に時折挿入される北朝鮮側の事情が余計だと思った。これはあくまでも、韓国の若い兵士キム・ジフン一等兵の視点からのみ物語られるべきではないのか。大勢にまったく影響を行使できない、自分が全体の中でどんな役目を担っているのかを把握しようのないひとりの兵士が、第二次朝鮮戦争に発展しかねない状況の中で何を感じ、どう行動したのかを描く方が、ドキュメンタリー風の面白い映画になったと思う。

 もちろん映画の終盤になって、監督が北朝鮮側の様子を事前に語っていた理由はよくわかった。たったひとりで敵陣に取り残された北朝鮮兵士の心情を語るのに、映画序盤からの描写があった方が好都合だったということだろう。しかしこれはそうした事情を知っている映画の観客にとっての都合であって、映画の中で主人公が何を考える際の手助けにはならない描写のはずだ。僕は主人公たちの心理的葛藤が頂点に達するクライマックスを見ながら、それまで主人公にそれなりの感情移入をしていた気持ちが、あっと言う間に冷めてしまうのを感じた。僕には主人公の気持ちがわからない。彼がその瞬間に何を感じ、どんな気持ちで最後の決断を下したのかがまったく見えてこない。

 ここで主人公から気持ちが離れてしまうと、その後のエピローグもやたらと偽善的に思えてしまう。彼は自分が何かいいことをした気持ちになっているが、それは本当にいいことだったのか? 釈然としない結末だ。

(原題:DMZ)

7月9日〜22日公開予定 銀座シネパトス、天六ホクテンザ、中川コロナワールド
配給:東映ビデオ
2004年|1時間38分|韓国|カラー|ビスタサイズ|ドルビー
関連ホームページ:http://www.toei-video.co.jp/dmz/
DVD SpecialShop DiscStation 7dream_88_31 TSUTAYA online
ホームページ
ホームページへ