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レイ_ジ_34_フン

2005/05/27 GAGA試写室
ロンドンの地下鉄に巣くった恐怖の正体とは……。
地下鉄構内に目をつけたのがいい。by K. Hattori

 渡英中のハリウッドスターに会えると聞いて、ケイトはパーティ会場を飛び出した。ところがこういうときに限ってタクシーが捕まらない。まだ終電までは少し間があるはず。ケイトは地下鉄のホームに向かう。終電を待つホームでベンチに座ったケイトは、ほろ酔い気分と安心感からついウトウト……。気がついたときには終電は終わり、ホームには人っ子一人いなかった。駅員たちの姿も見えず、施錠された地下鉄構内から外にも出られないありさまだ。やがてこの閉ざされた空間で、ケイトは身の毛もよだつ恐怖の体験をすることになる……。

 主演は『ラン・ローラ・ラン』や『ボーン・アイデンティティー』のフランカ・ポテンテ。監督はこれが劇場映画デビュー作だというクリストファー・スミスで、これ以前には短編映画やテレビドラマの監督をしていたという。

 昔ながらのお化け屋敷映画の舞台を、朽ちかけた古い洋館から、誰もが日常的に利用する地下の鉄構内に移したのがアイデア賞。通勤通学に頻繁に地下鉄を利用する人なら、終電が出て行ってしまった後の、閑散とした駅の様子を知っているだろう。地上に出ている駅でもかなりナンだが、周囲の街やネオンサインすら見えないという、閉ざされた地下鉄の空虚さというのは格別である。最近は駅のホームにも駅員がなかなかいないので、乗降客がいなくなるとホームは本当に無人になってしまう。コンクリートとガラスと金属で構成されたホームには湿って冷たい空気が充満し、声や足音だけがみょうに大きな音で響く。線路の上をネズミがちょろちょろ走っているのを見かけるのも、たいていこんな時間だ。そしてやたらと明るい。蛍光灯の冷たい光が構内を満遍なく照らし、それがホームから見えるトンネルの暗さを際立たせるのだ。

 この映画は「地下鉄構内はお化け屋敷になる!」と気づいた段階で、面白さの半分が確定してしまったと言ってもいい。地下鉄構内には人知れず眠っている横穴や廃駅、普段は利用されていない空間が無数に存在する。駅は地下街や近隣ビルの地下室ともつながり、迷路のような空間を作り上げている。地下の廃線・廃駅・横道については『交渉人真下正義』も取り上げていたし、地下街の迷宮化については諸星大二郎に「地下鉄を降りて」という漫画があった。この映画はそうした地下にまつわる都市伝説めいた挿話のひとつなのだ。

 映画は中盤から殺人鬼がその姿を現し、それまでの「地下の恐怖」とは別の話になってしまう。しかし殺人鬼の手から脱出して逃げ回る後半も面白い。殺人鬼による手術のパロディにはぞっとするし、天井から現れた殺人鬼が腕だけでぶら下がってぐるりと一回転してみせるシーンには鳥肌が立った。主人公が逃げおおせるのはこの手の映画のお約束だが、ヒロインが朝を迎えるエンディングのオチもよくできていると思う。最初から最後まで、緊張感が途切れないのがいい。

(原題:Creep)

7月公開予定 アミューズCQN、シネカノン有楽町、池袋シネマサンシャイン
配給:ギャガ・コミュニケーションズ
宣伝:ギャガ宣伝ウェスト、ドロップス 協力:ファインフィルムズ
2005年|1時間25分|イギリス|カラー|シネマスコープ|DOLBY DIGITAL、DOLBY SR
関連ホームページ:http://www.0-34.com/
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