PTU

2005/04/07 松竹試写室
拳銃をなくした刑事は朝までにそれを探せるのか?
ジョニー・トー監督のあたらしい傑作。by K. Hattori

 2000年9月14日深夜の香港。深夜営業のレストランで黒社会の幹部マーにすごんで見せたサァ刑事は、店を出たところで待ち伏せしていたマーの手下たちに袋叩きにされ、気がついたときは拳銃をなくしていた。パトロール中だったPTU(Police Tactical Unit=機動部隊)のホー隊長に助けられたサァは、自分の手で拳銃を取り戻すと言い張り、ホーの隊もこれに協力することになる。ところが同じ頃、サァが立ち寄ったレストランでマーが殺し屋に襲われて死んでしまう。てっきりマーのもとに拳銃が渡ったと考えていたサァは、すっかり途方に暮れる。しかも悪いことにマー殺しを捜査する女刑事のチョンは、サァ刑事の不振な行動に目をつけ始めた……。

 傑作『ザ・ミンション/非情の掟』のジョニー・トー監督による、ハードボイルド・タッチの警察ドラマだ。主人公は拳銃をなくしたサァ刑事だが、これは物語の全局面を横断していく案内役や狂言回しのようなもので、実際の主役はホー隊長と彼が率いるPTUだろう。しかしこのホー隊長もPTUのメンバーも、それほど魅力的な人物ではない。女性刑事のチョンも同じだが、彼らの顔は組織の中に埋没していて、個人というものがほとんど見えてこないのだ。

 「個人が見えない」は「個性が見えない」のとは意味が違う。この映画に登場する人物は、どれも非常に個性的。しかしそれが「ワタクシ」という「個人」にはなっていない。彼らはそれぞれが所属する組織の中で、「PTUのホー隊長」や「CID(犯罪捜査課)のチョン刑事」という役職と密接に結びついた個性を発揮する。そうした役職付きの個性から逸脱して本当の意味での個人がかいま見えるのは、拳銃紛失という絶体絶命の危機に追い込まれたサァ刑事と、ホー隊長のパトロールに勝手に付いて回る若いPTUの隊員など少数だ。彼らは組織に馴染んでいないはみ出た部分を持つがゆえに、そこから個人が透けて見える。

 全体にピリピリした緊張感の漂うドラマで、描写のそこかしこに『ザ・ミンション/非情の掟』に負けない生身のリアリティを感じさせる。だがこれがリアル一辺倒の映画なのかというとさに非ず。この暗闇の中に浮かび上がる人影は、20世紀初頭のシュールレアリズム絵画のように微妙に現実から浮かび上がっている。殺し屋に襲われた男が自らタクシーを拾って病院を目指すというシーンのおかしさ。人通りの絶えた夜の街で繰り広げられる、刑事とチンピラたちの鬼ごっこ。刑事が転ぶ原因を作ったバナナの皮。警官によって平然と行われる拷問。何よりもこの映画を観る人に違和感を抱かせるのは、腰のあたりに手をそえてじっと動かさないPTU隊員たちのたたずまいだろう。これは不気味だ。

 映画のクライマックスはもはやギャグのレベルにまで到達する。そんな馬鹿な!と呆れながら、それでも面白さに目は画面に釘付けだ。

(原題:PTU)

4月23日公開予定 ユーロスペース
配給:パンドラ
2003年|1時間28分|香港(中国)|カラー|シネスコ|SRD
関連ホームページ:http://www.p-t-u.com/
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