クローサー

2005/3/11 ソニー・ピクチャーズ試写室
ロンドンで繰り広げられる男女4人の錯綜した恋の行方。
人気舞台劇をマイク・ニコルズが映画化。by K. Hattori

 日本でも上演されたことのあるパトリック・マーバーの同名戯曲を映画化した作品。脚本はマーバー本人が手がけ、『卒業』や『ワーキング・ガール』のベテラン監督マイク・ニコルズが監督している。物語は4人の男女のもつれた恋の行方を描いた、サスペンス味たっぷりの恋愛心理ドラマとでも言うべきもの。主人公4人を演じているのは、ジュリア・ロバーツ、ジュード・ロウ、ナタリー・ポートマン、そして『キング・アーサー』のクライブ・オーウェン。室内風景が多く、台詞を多用し、暗転で時間を経過させるという、舞台劇をそのままスクリーンに移したような映画だが、これは作り手の意図するものだろう。本来なら舞台の板の上にいる人間をそっくりそのまま映画のカメラの前に立たせることで、ごまかしの効かない“スッピンの演技”を俳優たちから引き出しているのだ。

 物語は2組のカップルがたどる3年と少しの時間から、出会い、別れ、再会など、相互の関係に決定的な力を及ぼした瞬間を何ヶ所かピックアップしている。まず最初に、作家志望の新聞記者ダンと、アメリカからやってきた若いストリッパーのアリスが出会う。それから1年半後、小説家としてのデビューが決まったダンは、近影写真を撮るため女性写真家アンナのスタジオを訪れる。さらに半年後、ダンのいたずらをきっかけに、アンナは医師のラリーに出会う。こうしてダンとアリス、ラリーとアンナという2組のカップルができる。だがこのカップルの関係は安定しない。

 4人の主人公たちの位置は、ビリヤード台の上の玉のように常に移動している。しかし映画で描かれているのは、すべての玉が静止している「瞬間」だけだ。次にどの玉がどう動き、どう跳ね返り、結果として全体の配置がどう変化するかは、次に描かれる「瞬間」までわからない。ある「瞬間」が描かれた後、画面は暗転し、映画の中では数ヶ月の時間が経過し、また次の「瞬間」が現れる。そこにはさっき見たのとはまるで違う玉の配置があるのだが、それは確かに前に見た玉の配置と連続性を持っている。ひと続きの運動がストロボ撮影で何枚もの静止画像になるように、この映画は4人の主人公たちの人生を輪切りにしてその断面を提示するのだ。

 恋愛とセックスについての映画だが、この映画を観て登場人物に感情移入したり共感したりする人がいるようには思えない。主人公たちの行動は、水槽の中の魚のように観客から観察されている。(映画の中には水族館が登場する。)水槽の中の魚は確かに生きているが、冷たい光に照らされた魚たちの行動をいくら興味深く観察したとしても、そこから魚に対する共感が生まれるわけではないだろう。

 だがこうした「観察の視点」は、劇中の人物同士の間にも存在しているのだ。彼らはみんな冷たく醒めた目でお互いを、そして自分自身を観察しているように思える。

(原題:Closer)

5月21日公開予定 丸の内プラゼールほか全国松竹東急系
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
2004年|1時間43分|アメリカ|カラー|ビスタサイズ|SDDS、SDR、ドルビー
関連ホームページ:http://www.sonypictures.jp/movies/closer/
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