Little Birds

イラク 戦火の家族たち

2005/2/17 映画美学校第2試写室
イラク戦争をイラク人の一般市民の視点から描くドキュメント。
この痛ましい犠牲に見合う戦争の大義は? by K. Hattori

 9.11後のアフガニスタンやイラクでフリーのビデオジャーナリストとして活動している綿井健陽(わたい・たけはる)が、イラク戦争の取材で得た120時間あまりの映像素材から作った1時間42分の劇場用ドキュメンタリー映画。イラク戦争では軍の装甲車や戦車に記者が乗り込み、砂漠を進撃するアメリカ軍の様子を世界中に生中継していたのが印象的だったが、綿井監督の取材カメラはイラクを攻めるアメリカ軍の側には立たない。そのカメラポジションはアメリカに攻められるイラク、しかも軍とはまったく無関係にも関わらず、攻撃を受け傷つくイラク一般市民の側にある。

 映画は開戦数日前のバグダッドの様子から始まる。そこにあるのは、世界のどこでも見られる平和な市民の日常だ。市場には物があふれ、市民たちは街頭でテレビを見ながらくつろぎ、子供たちは路地でサッカーをしている。戦争はもうすぐ目の前に近づいているのに、それでも人々はそれまでの生活をやめない。だが戦争前日になると、街の様子は一変する。通りからは人が消え、店はシャッターを下ろして固く施錠され、まるでゴーストタウンのようになる。真夜中に日付が変わると、そこから戦争が始まる。爆撃の閃光と轟音。そして綿井監督のカメラは、空襲直後の街に飛び出していく。

 綿井監督は現地取材したビデオレポートを日本のテレビ局に提供しており、僕もおそらくはテレビ番組を通じて、綿井監督の現地レポートを見ているに違いない。しかしニュース番組の中で数分の特報や現地レポートとして紹介される映像と、1時間42分の映画とではそのボリュームがまったく違う。

 映画の中には何人もの一般市民犠牲者が登場する。中でも一番大きく取り上げられているのは、米軍による民家への誤爆で一度に3人の子供を失ったアリ・サクバンという男の姿だ。自宅で爆弾に吹き飛ばされ即死した2人の子供と、まだかろうじて息のある3歳の娘を前に泣きじゃくる父親。幼い娘の頭は割れて、脳が外に飛び出していたという。当然重態で意識はないが、それでもまだ苦しげに小さな手足をばたつかせている娘。父親は我が子の血で真っ赤に染まったシャツのまま、目の前で消えていく娘の命を見つめるしかない。映画はその後のアリを追跡取材してるが、やがて彼の中には、アメリカに対する抑えがたい反発心が膨れ上がって行く……。米軍の言うイラク解放戦争が、罪のないイラク人を傷つけ、殺し、財産と仕事を奪い取ることで、かえってアメリカへの反発と憎悪を生み出している現実。ここにはそれがありのままに記録されている。

 アメリカの仕掛けたイラク戦争は、フセインの圧制から人々を解放したかもしれない。でもそのために、一般市民の犠牲は何人までなら許されるのか。アメリカ軍もそれに協力する日本政府も、それについて明確な回答を持っているようには思えない。

GW公開予定 新宿K's Cinema
配給:Project Little Birds 配給協力:バイオタイド
2005年|1時間42分|日本|カラー
関連ホームページ:http://www.littlebirds.net/
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