ライフ・イズ・コメディ!

ピーター・セラーズの愛し方

2005/2/4 シャンテ・シネ2
『ピンクパンサー』の主演俳優ピーター・セラーズの伝記映画。
ジェフリー・ラッシュは一人何役なんだ? by K. Hattori

 映画『ピンクパンサー』シリーズで知られるイギリスの喜劇俳優ピーター・セラーズの伝記映画。主人公のセラーズを演じるのは、『シャイン』で実在のピアニストを演じアカデミー賞を受賞しているジェフリー・ラッシュ。セラーズの最初の妻を『奇跡の海』のエミリー・ワトソンが演じ、2番目の妻を『モンスター』でオスカーを受賞したばかりのシャーリーズ・セロンが演じている豪華な配役。『ピンク・パンサー』シリーズの監督ブレイク・エドワーズ役で、ジョン・リスゴーが顔を見せているのも嬉しい。怪しい占い師を演じたスティーブン・フライ、スタンリー・キューブリック役のスタンリー・トゥッチなど、脇のキャストまで厚みのある配役になっている。

 伝記映画にはさまざまな語り口のパターンがあるが、回想形式というのはその中でも比較的よく使われるものだ。この映画はジェフリー・ラッシュ演じるピーター・セラーズが、ピーター・セラーズの生涯について語るという回想形式になっているのだが、回想シーンだと思っているとそれが撮影所のセットで演じられるお芝居になったり、セラーズ(ラッシュ)が自分の中心にいる他の人物も演じたり、同じシーンをバージョン違いで2度演じて見せたりして観客を幻惑する。ここでは劇中で描かれるピーター・セラーズの「実像」そのものを、映画自体が批判しているのだ。観客が「なるほどピーター・セラーズとはこんな人だったのか」と納得しかけると、それをはぐらかすようにまとまりかけたセラーズ像に揺さぶりをかけていく。

 この映画を観ても、おそらくピーター・セラーズという人については何もわからない。ここに描かれるセラーズは、『ピンクパンサー』のクルーゾー警部や『博士の異常な愛情』のストレンジラブ博士なみの奇人なのだ。ここに描かれている奇行の数々は、おそらく実際にあったことなのだろう。しかしその奇行に彼を押しやる動機の部分は、この映画の完全なフィクションに違いない。セラーズの一人称で語られる物語があまりにも凝った構成になっているのは、それが現実ではないというサインなのだ。

 映画ファンにとっては、劇中にセラーズの出演したさまざまな映画が引用され、名場面や製作の裏話が再現されているのは楽しい。映画界入りする出演していたラジオコメディから、『ピンクパンサー』シリーズ、『博士の異常な愛情』、『007/カジノロワイヤル』、そして最晩年の『チャンス』などなど、ジェフリー・ラッシュが発声から動作まで、ピーター・セラーズの究極の物真似芸を見せている。

 劇場によっては本編の上映前に、ココリコの田中直樹がクルーゾー警部に扮したショートムービーが上映される。これを観てから本編を観ると、「クルーゾー警部(ピンクパンサー)の物真似」と「ピーター・セラーズの物真似」が似て非なるものであることがよくわかる。ジェフリー・ラッシュはすごいや。

(原題:The Life and Death of Peter Sellers)

1月29日公開 シャンテシネ、ヴァージンTOHOシネマズ六本木ヒルズほか
配給:東芝エンタテインメント
2004年|2時間5分|アメリカ、イギリス|カラー|ドルビーデジタル
関連ホームページ:http://www.lifeiscomedy.jp/
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