クライシス・オブ・アメリカ

2005/1/12 UIP試写室
軍需産業にコントロールされた議員がホワイトハウスに……。
これってジョージ・ブッシュのことじゃないか。by K. Hattori

 1991年に起きた湾岸戦争の英雄レイモンド・ショーは、大物議員である母親の後ろ盾と甘いマスクを武器に政界入り。その後もとんとん拍子の出世を続け、ついに党の副大統領候補に抜擢されるまでになった。だが同じ頃、戦争でショーと同じ部隊にいたベン・マルコ少佐は悪夢にうなされる日々を送っていた。敵地で移動中に敵の急襲を受けた際、意識を失った自分に代わって獅子奮迅の活躍で部隊を救ったショー軍曹。しかしその記憶が、どうにも曖昧であやふやなのだ。薄っぺらで現実味に乏しい自分の記憶を、必死に信じ込もうとしてきたマルコのもとに、ある日かつての部隊の仲間が訪ねてくる。彼もまた、マルコとまったく同じ悪夢と記憶の曖昧さに悩まされていた。自分たちの記憶は、本当に確かなものなのか? ショーは本当に戦争の英雄なのか? マルコは独自の調査を始める。

 原作はリチャード・コンドンの小説「影なき狙撃者」で、この小説は'62年にジョン・フランケンハイマー監督によって一度映画化されている。今回の映画はそのリメイクだ。原作と1度目の映画のテーマは、善良な兵士を洗脳によって殺人者に仕立て上げるというアイデアにあったようだが、今回の映画は舞台設定を政界と大統領選挙にして、洗脳と催眠術でコントロールされた人間が国家指導者となる恐怖を描こうとしているようだ。映画としてはサスペンス主体のエンターテインメント作品なのだが、これはあからさまなブッシュ大統領批判ではなかろうか。映画に登場するレイモンド・ショー下院議員は、そのままブッシュ現大統領と瓜二つではないか。親が有力な政治家。保守的なアメリカ中心主義者で対外的にはタカ派外交論者。支持基盤は軍需産業。捏造された戦歴。そしてリモコン操縦。

 昨年の大統領選挙でブッシュ大統領が無線機を使って演説内容の指示を受けていたことは大スキャンダルとして日本にも伝えられたが、この映画でやっていることもそれと同じだ。この映画は大統領選挙よりだいぶ前に作られているはずだが、そこで「恐るべき陰謀」として語られていることが、もっと素朴なテクノロジーを使って既に行われているのだ。しかも操られているのは副大統領ではなく、既に大統領になっている。巧妙なサスペンス映画よりも、現実のほうが一歩も二歩も先を行っている。

 映画の世界は現実の世界とは違うパラレルワールドだ。そこにクリントン大統領はいてもブッシュ大統領はいない。この映画の中で陰謀の存在に気づくベン・マルコが現実のわれわれの世界に来たら、大統領のリモコン疑惑を見てどう思うだろう。しかもしれが伝えられた後で、難なくブッシュが大統領に再選されてしまった現実を見てどう考えるだろうか。現実世界は映画さながらの陰謀が渦巻き、映画以上に謎めいている。

 ショー候補の母を演じたメリル・ストリープが強烈! 恐いよ〜。

(原題:The Mnchurian Candidate)

3月26日公開予定 全国ユナイテッド・シネマ
配給:UIP
2004年|2時間10分|アメリカ|カラー|ビスタ|DTS、SRD、SR
関連ホームページ:http://www.coa-movie.jp/
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