ジョヴァンニ

2004/10/21 松竹試写室
史上初めて重火器の犠牲となった騎士ジョヴァンニ最後の6日間。
背景となる歴史がわかりにくい。by K. Hattori

 フランス国王フランソア1世とドイツ皇帝カール5世(神聖ローマ帝国皇帝)がイタリアの覇権を競ったイタリア戦争を、諸侯が乱立する小国の寄り合い所帯だったイタリアの視点から描く歴史ドラマ。邦題になっている『ジョヴァンニ』というのは、皇帝軍の侵入を阻もうと戦う教皇軍の騎兵隊隊長ジョヴァンニ・デ・メディチのこと。映画は1526年11月のジョヴァンニが死から始まり、なぜ彼が死んだのか、彼はいかにして死んだのかを描くため6日前に時間を戻す。

 監督は『木靴の樹』『聖なる酔っぱらいの伝説』のエルマンノ・オルミ。彼はこの映画を通して、戦争という義務が貴族や職業軍人たちにとって高貴な義務であり得た最後の時代を描こうとしている。主人公ジョヴァンニは名門メディチ家の出身で、教皇に対する忠誠心と武勇で知られた一騎当千の兵士だ。イタリアに侵入する皇帝の傭兵部隊を相手に一歩も引かぬ意地を見せていたジョヴァンニだったが、保身のために教皇を裏切った諸侯が皇帝軍に送った大砲によって足に重傷を負って死に至る。馬上の騎士同士が1対1で斬りむすぶ中世以来の戦争は、この新兵器の前に姿を消してしまうのだ。

 映画は徹底的に「事実の再現」にこだわっているようで、当時の軍隊や戦争の様子、貴族たちの生活ぶりなどが詳細に描かれているのは興味深い。しかしそれがドラマチックな戦争スペクタクルになるわけも、時代の変遷の中で命を落とす英雄の悲劇を盛り立てるわけでもなく、ひたすら淡々と「こんなことがありまして……」とエピソードがつながれていくのは少々刺激不足かもしれない。特に戦場で傷を負ったジョヴァンニが感染症で死ぬまでを描くくだりは、戦闘シーンもなくなって地味な室内場面ばかりになる。しかもこの場面に、かなり長い時間を割いている。

 しかしこの地味で華やかさのない「死」を描くことが、この映画の狙いだったのだと思う。そもそもイタリア戦争で教皇軍は負けて、これ以降イタリアは長きに渡って外国の支配下に置かれることになる。イタリア戦争はあくまでもフランスとドイツの戦争であって、世界史の大きな視点で見ればイタリア自体はその蚊帳の外にいる。ジョヴァンニの死は、歴史の中ではきわめて小さな点に過ぎないはずだ。しかしこの映画は、その小さな点を1時間45分に拡大してみせる。そこにはひとりの人間の生々しく荒々しい人生と、愛の営みの温かさがある。どんなに小さな死も、その人にとっては全世界の存亡に関わる問題なのだ。歴史の本なら1行で済んでしまうことを、わざわざ1本の映画にしている意味がそこにある。

 イタリア人にとってイタリア戦争は大きな問題だろうが、日本人にとっては当時の歴史的な背景がわかりにくいと思う。映画の冒頭に字幕で1〜2枚の説明を入れてくれるだけで、だいぶわかりやすくなると思う。配給会社にはもう少し努力してほしい。

(原題:Il Mestiere delle armi)

11月13日公開予定 シャンテシネ
配給:プレノンアッシュ
2001年|1時間45分|イタリア|カラー|1:1.85ヴィスタ|ドルビーSRD
関連ホームページ:http://movie.goo.ne.jp/joanni/
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