ヘルボーイ

2004/10/02 錦糸町シネマ8楽天地(シネマ4)
人気のアメリカン・コミックをギレルモ・デル・トロが映画化。
細部は面白いが脚本は練り込み不足。by K. Hattori

 『ミミック』や『ブレイド2』のギレルモ・デル・トロ監督が、アメリカの人気コミックを実写映画化した作品。主人公ヘルボーイを演じるのは、個性的な風貌で映画ファンに知られるロン・パールマン。その育ての親ブルーム教授をジョン・ハートが演じ、恋人(?)リズをセルマ・ブレアが演じている。アメリカはじめ全世界で公開されているのは2時間2分バージョンだが、日本はそれより10分長いディレクターズカットでの公開となる。しかし映画を観たところでは、この物語の魅力を伝えるにはさらに10分は必要だと感じた。このディレクターズカットは中途半端だ。これなら10分短くして、アクション主体に構成した方がいいのではないだろうか。

 物語は今から60年前の1944年に始まる。敗色濃厚なナチスはオカルト結社トゥーレ協会を通じて、帝政ロシアを滅ぼした不死身の怪僧ラスプーチンに接触。冥界への扉を開いて、異世界の巨大パワーを引き出すことを画策する。これを察知した連合軍はこの恐るべき計画を半ばにして阻止するが、わずかに開かれた扉から真っ赤な身体をした悪魔の子供が人間の世界に送り込まれてくる。ヘルボーイと名付けられたその子供はFBIのオカルト捜査部員として、世界各地で起きるオカルト事件を捜査していた。そんなヘルボーイの前に、再びラスプーチンが現れる。

 映画としてはヘルボーイ誕生を描く導入部がもっとも面白くてワクワクするぐらいで、あとは話が細かくぶれて焦点が定まりきらない。物語の背後にものすごく大きな世界があることはわかるのだが、表面に現れている物語を通してその背後がうまく見えてこない。ヒットラーの死が1945年ではなく、50年代も半ばになってからなのはなぜなのか。ロマノフ王朝滅亡の原因とも言える怪僧ラスプーチンが、史実通りに死んではおらず、第二次大戦末期まで生きながらえているのはなぜか。半魚人のエイブ・サビエンは何者なのか。トゥーレ協会とクロエネンの正体は。映画を観ていてすぐ疑問に思うこれらの謎は、ひょっとしたら原作の読者になら通じる裏設定なのかもしれないが……。

 物語は常に疑問が付きまとって煮え切らないのだが、個々のシーンはデル・トロ監督ならではの美意識が見え隠れする楽しいものだった。特に妖獣サマエルが暴れ回るシーンや、ラスプーチン以上のバケモノに思えるクロエネンの活躍シーン、血だまりからゆっくりとラスプーチンが復活する場面などは、独特の手触りや質感を感じさせる仕上がりだ。これで脚本がもう少しこぎれいにまとまっていると、もっと面白い映画になっただろうに。

 チョンマゲの大男というヘルボーイの姿は、岩石でできた右腕や尻尾を除けば「立ち会いを前に興奮で肌が紅潮したお相撲さん」という感じ。親しみはわくけど地獄から来た悪魔の子供とは思わないし、特別醜い顔だとも思わない。これはもう少し凄味がほしいな。

(原題:Hellboy)

6月26日公開 日比谷スカラ座1他・全国東宝洋画系
配給:UIP
2004年|2時間28分|韓国|カラー|シネマスコープ
関連ホームページ:http://www.uipjapan.com/hellboy/
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