エイプリルの七面鳥

2004/08/31 GAGA試写室
感謝祭のディナーを通して家族と和解しようとする少女の話。
映画の最後はとても幸せな気持ちになれる。by K. Hattori

 感謝祭(サンクスギビングデー)の休日。ニューヨークで恋人ボビーと同棲しているエイプリルは、間もなくやって来るであろう家族のために七面鳥と格闘している。家族と折り合いが悪くて家を飛び出していた彼女は、この機会に家族と、特に母親と和解したいと願っているのだ。同じ頃エイプリルの家族は、両親と妹弟に痴呆の祖母が小さな車に乗り込み、一路ニューヨークを目指す。家族にとってこの休暇は特別なもの。それはおそらくこの家族にとって、一家全員で過ごす最後の休暇になるからだ。一家の母ジョーイは、ガンで余命幾ばくもない身体なのだ。薬の副作用で気分が優れず、ただでさえ勝ち気な性格がますますトゲを含んだものになっているジョーイをいたわりながら旅は続く。だが食事の支度をしているエイプリルは、その頃とんでもないトラブルに見舞われていた……。

 アメリカ映画には「クリスマスの奇跡」を描く映画がたくさんあるが、この映画はさしずめ「感謝祭の奇跡」を描いた映画になっている。ここで起きる奇跡に、超自然の要素は何もない。家族が互いの欠点を許し合い、過去を乗り越えて和解する。それまで面識のなかった隣人たちが、ひとつの家族のように協力し合う。やくざな生き方をしてきた青年が、恋人のために更生する。そんな小さな出来事が、ギュッとその1日に凝縮されるのだ。これを奇跡のような1日と呼ばずして、何と呼べばいいのだろう。

 これは家族再生のドラマだが、再会と和解をはたした家族には、それほど長い時間が残されているわけではない。だが時間がないからこそ和解が成立した面もあるわけで、これは人生の皮肉と言うしかない。

 映画の中では感謝祭(サンクスギビングデー)の由来が語られている。アメリカに初めて移民してきた人たちは、生き延びるために現地の人たちと協力し合わなければならなかった。これはそのまま、七面鳥作りに七転八倒しながらご近所と親交を深めていくエイプリルの姿と重なり合う。この映画が「クリスマスの奇跡」ではなく、「感謝祭の奇跡」の物語でなければならない必然性はここにある。

 ところで以前知り合いの牧師から聞いてなるほどと思った話。それは聖書に出てくる「あなたの隣人(となりびと)を自分のように愛しなさい」という台詞についてだ。人間は遠く離れた場所にいる赤の他人なら、いくらでも愛することができる。地球の裏側にいる難民のために募金したり、遠く離れた被災地のために救援物資を送る人は大勢いる。だがそんな人も、いざ自分の隣人のことになると厳しい態度を取ることが多い。赤の他人には寛容な人が、身近な人の小さな欠点は気に障って許せないというのはよくあることだ。その「隣人」の最たるものが家族だろうと思う。家族は本来互いにいたわり慰め合うべき存在なのかもしれないが、家族なればこそ、赤の他人なら許せることも許せないということは多いのだ。

(原題:Pieces of April)

10月下旬公開予定 Bunkamuraル・シネマ
配給:ギャガ・コミュニケーションズ 宣伝:ギャガGシネマ、キネティック
2003年|1時間20分|アメリカ|カラー|ヴィスタサイズ|SRデジタル
関連ホームページ:http://www.gaga.ne.jp/april/
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