ユートピア

2004/08/31 メディアボックス試写室
予知能力を持った青年がひとりの女を助けようとするが……。
映像表現は面白いが話はもう少しかな。by K. Hattori

 未来予知という不思議な能力を持つアドリアンは、その能力ゆえに苦しみを味わっていた。自分の予知したとおりに人は傷つき死んでいくが、彼はそれに対してまるきりの傍観者でしかない。6年前に起きた爆弾事件の際も、彼はそれを予知しながら止めることができなかった……。今現在彼を悩ませているのは、南米の学校で子供たちを教える若い白人教師が、テロリストに襲われて子供たちを殺される場面だ。彼女の名はアンヘラ。アドリアンは自分の予知夢を打ち消すために、今ではテログループの一員となっている彼女を助けようとするのだが……。

 監督はペネロペ・クルスが出演した『イフ・オンリー』や、『恋人たちの食卓』の翻案作『恋のトルティーヤ・スープ』などの作品があるスペイン人の女性監督マリア・リポル。主人公アドリアンを演じるのは『カルメン』のレオナルド・スバラグリア。アンヘラ役には『オープン・ユア・アイズ』や『アナとオットー』のナイワ・ニムリ。目の前で妻と娘の爆死を目撃し、盲目となったフランス人刑事エルヴェをチェッキー・カリョが演じている。

 超能力者の苦悩を描く映画はこれまでにも数多く作られているし、この『ユートピア』もそうした先行作品から強い影響を受けていることは明らかだ。超能力が使われた時に鼻血が出るという描写は『スキャナーズ』だろうし、何気ない日常の中に突如フラッシュ・フォワードのように未来のビジョンが飛び込んでくるインパクトは『デッド・ゾーン』に似ているかも。だがそれでも、この映画の超能力描写はユニークだ。それは主人公の日常と予知能力があまりにも緊密に結びつきあっているため、どこからが未来予知でどこからが現実なのかが時としてわかりにくくなる点にある。これは主人公の心理状態をそのまま表しているのだ。彼は自分の予知能力に押しつぶされそうになっている。予知能力で見た過去と未来のあまりにも鮮明なビジョンに、彼自身が振り回されてコントロール不能な状態になっている。

 予知能力を使うにせよ、タイムトラベルという手段を使うにせよ、未来に起こる出来事を知ってしまった人間を主人公にした映画は、構成に理路整然とした緻密さが求められる。その点で、この映画はエピソードの結束がずいぶんとゆるい。説明不足に感じられる点もあれば、ストーリーに飛躍が感じられる場面もある。それが映画終盤のスリルを減じるものになっている。結局アドリアンの予知は、アンヘラのテログループへの思い入れや、エルヴェの事件に対するこだわりと同じような、個人的執着という面が大きいのかもしれない。この映画の中では、アドリアンの能力も他の人々が持つ個人的執着より上位に置かれているわけではない。

 となればこの映画のテーマは、「こだわりを捨てて自由になれ」ということか。ずいぶん回りくどいが、これはこれで人生の真実だったりすのかも。

(原題:utopia)

今秋公開予定 シネセゾン渋谷
配給:ワイズポリシー、アーティストフィルム
2003年|1時間41分|スペイン、フランス|カラー|1:2.35シネマスコープ|ドルビーSRD
関連ホームページ:http://www.wisepolicy.com/
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