草の乱

2004/08/12 メディアボックス試写室
1884年に起きた秩父事件を神山征二郎監督が映画化。
映画の時代背景についてもっと知りたい。by K. Hattori

 1884年11月。生糸の暴落による借金と重税に苦しむ秩父地方の農民数千人が武装蜂起し、高利貸しを襲って証文を焼き、役場を襲って役人や警官を地域から追い出してしまうという大事件が勃発した。だが後に「秩父事件」と呼ばれるこの農民蜂起は、わずか数日で鎮圧されてしまう。この事件は政府に不平不満を持つ農民たちが博徒らに扇動されて暴徒と化した事件として、歴史の中で不当に扱われてきたという。事件から120年目にあたる今年、この事件の全貌に光を当てる映画が登場した。監督は『郡上一揆』の神山征二郎。

 映画の主人公は、事件のリーダー格のひとり井上伝蔵。事件の首謀者として死刑判決を受けた彼は北海道まで逃げ延び、偽名を使って生きてきた。事件から30年以上が過ぎた死の床で、伝蔵は家族たちに初めて自分の素性や事件の真相を語り始める……。

 映画はここから回想シーンになり、生糸の大暴落で農民たちが困窮を極める「秩父事件」前夜の秩父へと戻る。農民たちの困窮につけ込んで、資産をむしり取っていく高利貸したち。当時は国会も開かれていない時代で、農民の窮状を役所はまったく取り上げようとしない。自由民権運動に触発された農民たちは、政府批判の自由党に次々入党するが、過激化する農民たちをコントロールできなくなると自由党は彼らを見捨ててしまう。農民たちは自ら困民党を結成。高利貸したちに借金証文の破棄を求めて、ついに武装蜂起する。

 『郡上一揆』で農民たちの組織力と交渉能力を見せつけた神山監督は、今回の映画でも農民たちの力強い行動力を存分に描いている。各村々ごとに人数を繰り出し、警官隊相手に堂々と武力行使する農民たちの美しさ。白はちまきにたすき掛けの軍勢が、疾風の如く駆け抜けていく場面の躍動感。数千人のエキストラが参加したという群衆シーンはすごい迫力に仕上がっている。

 だがこれだけの大事件を描くのに、2時間という時間はあまりに短すぎた。農民たちが反乱にまで追い込まれた背景が、単なる絵解きになってしまっているのは残念だ。この時間内でこれ以上何がやれるわけでもないのだろうが、欧米列強に対抗するため否応なしに富国強兵に精出さねばならなかった明治日本の立場や、生糸生産で一時は豊かな生活を味わった秩父農民の思惑、自由民権運動の背景、そして反乱に加わった人々のドラマ、反乱によって一家の大黒柱を失った農民たちのその後など、描くべきエピソードはまだまだたくさんあるように思う。2時間の映画はあくまでも秩父事件のダイジェストだろう。これは年末年始の長時間スペシャル時代劇などで、じっくりと時間を費やして語るべき素材かもしれない。

 緒形直人の老けメイクが安っぽいのは興ざめ。こうした部分には、セットと同じぐらいの手間と時間をかけないと話が軽くなる。もしくは老後の伝蔵だけ、緒形拳に演じさせても面白かったかも。

9月4日公開予定 有楽町スバル座
配給:映画「草の乱」製作委員会
2004年|1時間58分|日本|カラー
関連ホームページ:http://www.kusanoran.com/
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