丹下左膳

百万両の壺

2004/05/25 日本ヘラルド映画試写室
山中貞雄の映画をリメイクしたものだがこれはヒドイ。
コメディ映画なのに笑えないよ。by K. Hattori

 戦前の日本映画界を代表する天才・山中貞雄監督の代表作『丹下左膳餘話・百萬兩の壷』を、豊川悦司主演で津田豊滋監督が再映画化したもの。オリジナル版のために書かれた三村伸太郎の脚本を、プロデューサーでもある江戸木純が改訂している。

 以下オリジナル版の『丹下左膳餘話・百萬兩の壷』を踏まえての感想だが、今回の映画は脚本の改訂がすべて裏目に出ていると思う。映画導入部で左膳が隻手隻腕となるいきさつを描いているが、こんなものははっきり言って不要なのだ。山中貞雄の原作は言うに及ばず、林不忘の原作でも、左膳は最初から隻手隻腕の異様な姿で現れて平気な顔をしている。左膳が主君に裏切られて片目と片腕を失うというエピソードは、伊藤大輔が『新版大岡政談』のために作ったオリジナルの設定。この陰惨なエピソードがあることで、カラリと明るくならなければならない映画に暗い影が差している。

 オリジナル版で櫛巻きお藤を演じたのは、小原節で有名な芸者出身の人気歌手・喜代三(きよぞう/新橋喜代三(きよみ))だった。だから映画の中には、彼女が歌うシーンが用意されている。これは当時の観客にとって、最高のファンサービスだったのだ。でもそれと同じことを、歌手でもない和久井映見にやらせることにどんな意味があるのだろう。これは原脚本を大幅に改訂するべきだったと思う。なお櫛巻きお藤の「櫛巻き」というのは彼女の髪型から名付けられたものだが、今回の映画では普通の丸髷になっている。役名からは「櫛巻き」が取れて、ただの「お藤」。なんだかなぁ……。

 現在残っている『百萬兩の壷』のプリントはクライマックスの大チャンバラが戦後の検閲でカットされており、今回の映画ではそれを「復元」したというのが売り。でも大河内傳次郎のチャンバラがカットされれば残念だと思うけど、豊川悦司のチャンバラを見せられてもこちらは嬉しくないのだ。むしろこれは残存プリント同様にチャンバラを思い切りよく切って、すぐにちょび安のシーンにつなぐ方がよかっただろうに。このあとに続く『狐の呉れた赤ん坊』みたいな話も余計だ。

 オリジナル版のギャグはそのまま踏襲しているのだが、オリジナルは大河内傳次郎という強面の俳優が意地っ張りで子煩悩の男を演じるから面白いのであって、豊川悦司では面白さは半減だ。和久井映見も鉄火肌の姉御を演じるには貫禄不足。これは江角マキコあたりが演じると、威勢のいい役になったと思う。クズ屋(回収屋)を演じた男女コンビは、観ていて鳥肌が立つくらいに気持ち悪い。

 全体に芝居の演出が額面通りで、人間が表向き見せる表情の裏にある感情の機微が伝わってこないのは致命的。『百萬兩の壷』のリメイクを作るなら、脚本・監督は山田洋次にやらせればよかったのだ。もはや映画じゃ無理だから、どこかのテレビ局は松竹に企画を出しいてみてはどうか。

夏公開予定 恵比寿ガーデンシネマ
配給:エデン 宣伝協力:メディア・スーツ、ソフトシューズ
2004年|1時間58分|日本|カラー
関連ホームページ:http://www.sazen2004.com/
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