ドーン・オブ・ザ・デッド

2004/05/18 日比谷映画
ジョージ・A・ロメロの古典ホラー『ゾンビ』をリメイク。
オリジナル版とは違う面白さがある。by K. Hattori

 1978年に製作公開された『ゾンビ』は、世界中で多くの亜流映画を生み出し、80年代のスプラッタ映画ブームを呼び寄せたホラー映画の古典。これに先行する『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』(68年)と続編『死霊のえじき』(85年)を合わせて、ジョージ・A・ロメロ監督の『ゾンビ』三部作とも呼ばれるカルト映画だ。シリーズ第1作『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』は、『ゾンビ』の特殊メイク担当だったトム・サヴィーニの手によって、90年に『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド/死霊創世紀』としてカラー映画にリメイクされている。本作『ドーン・オブ・ザ・デッド』は、それに続く『ゾンビ』三部作第2章のリメイクだ。

 物語は大筋で『ゾンビ』をなぞっている。町中にあふれかえったゾンビ(リビングデッド)から逃れた人たちが、ショッピングモールに立てこもるという設定は同じだ。だがそれ以外は、かなり自由に脚色されている。もっとも大きな違いは、主人公を女性にしたことや、モールに立てこもる人数を大幅に増やしたことだろう。人数を増やしたことで、孤立したモールの中で展開する人間同士のドラマはずっと豊かなものになった。ただし『ゾンビ』が持っていた寓話めいた雰囲気は、集団劇になったことで失われていると思う。『ゾンビ』のショッピングモールはまさしく「世界の終わり」という感じがしたが、『ドーン・オブ・ザ・デッド』は「ゾンビの世界」と「人間の世界」をモールの壁が隔てているだけに感じられるのだ。通りの向かいの銃砲店とのやりとりも、世界に点在するであろう「人間の世界」の広がりを感じさせるものだ。

 そんなわけで今回の映画は、『ゾンビ』に描かれた「世界の終わり」が好きな人には物足りないものになっていると思う。『ゾンビ』の主人公たちほど、今回の映画の主人公たちは切羽詰まった追いつめられ方をしていない。でも僕はこれはこれで、面白い映画だと思った。モールを牛耳っていた警備員たちと後から逃げ込んだ主人公たちの立場が、ゆっくりと逆転していく人間ドラマなどはじつに面白い。銃砲店との絶望的なやりとりや、ライフルを使った絶望的なコミュニケーションのブラックユーモアなどは、この映画の財産ではないだろうか。

 この映画ではゾンビが素早く動き回ることに、往年の『ゾンビ』ファンから驚きの声が上がっているが、それより大きな変更点はカニバリズムの描写がなくなったことだと思う。たぶんロメロの『ゾンビ』三部作がショッキングだったのは、ゾンビが人を襲ってその肉を食うことにあったのではないだろうか。今回のゾンビは人間に噛みつき、一部の肉を食いちぎったりするものの、人間をバラバラにしてむさぼり食うことはしていない。このあたりはかつてスプラッター映画の洗礼を受けた世代として、「う〜ん、時代が変わった」と思わざるを得ない。

(原題:Dawn of the Dead)

5月15日公開 日比谷映画他・全国東宝洋画系
配給:東宝東和
2004年|1時間40分|アメリカ|カラー|シネスコ|DTS、ドルビーデジタル、SDDS
関連ホームページ:http://dotd.eigafan.com/
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