クレヨンしんちゃん

嵐を呼ぶ!夕陽のカスカベボーイズ

2004/05/05 日劇2
西部劇のパロディに挑んだシリーズ12弾。
映画ファンとしては許し難い。by K. Hattori

 満つれば欠けるの言葉通り、『嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲』と『嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦』で頂点を迎えた劇場版『クレヨンしんちゃん』は、監督が原恵一から水島努に交代した『嵐を呼ぶ栄光のヤキニクロード』以降低迷し始めた。それは水島監督の第2作目にあたる、この『嵐を呼ぶ!夕陽のカスカベボーイズ』でも同じことだ。非日常的なトラブルに巻き込まれた野原一家が、力を合わせてそこから脱出するいつも通りの物語なのだが、今回は物語の設定に疑問があるし、パロディにもギャグにも切れ味が欠けていると思う。

 商店街から路地を入った裏通りに、ひっそりとたたずむ古い映画館カスカベ座。無人のはずのその映画館で、しんのすけたちカスカベ防衛隊の前に1本の古い西部劇が映し出される。そしてしんのすけが少し席を外しているうちに、他の仲間たちは消えてしまった。行方不明の子供たちを探そうと映画館にやってきた野原一家は、その直後に映画の中に取り込まれてしまう。そこは悪徳知事が町を牛耳る西部劇の世界だった!

 この映画で一番の不満は、野原一家が取り込まれる西部劇の世界に、西部劇ならではの醍醐味が欠けていることだ。ここにはガンプレイがない、幌馬車隊もない、インディアンの襲撃も騎兵隊もない。酒場には娼婦がいない。町の中心には集会所を兼ねた教会がない。『クレヨンしんちゃん』は子供向けのアニメだから、銃を使って無法者を撃ち殺すとか、インディアンを騎兵隊がやっつけるという話が作れないという事情はわからぬでもない。でもほんの少し前に『アッパレ!戦国大合戦』で本格時代劇をやったばかりなのに、西部劇らしい西部劇が作れないはずがないだろう。ガンプレイを忌避するなら最後までそれを貫けばいいのに、最後の最後になって『荒野の七人』が登場するのも中途半端。

 しかし物語の上でそれより許せないのは、この映画が「映画より現実の方が素晴らしい」という、およそ娯楽映画にあるまじきメッセージを振りまいていることだ。この映画の野原一家は、いつだって現実に帰ることばかりを考えている。現実がそんなにいいのか? それよりもまず、映画という虚構の世界の中で町に平和を取り戻すことを考えろよ! 悪漢を倒した正義の味方が、町の人たちに惜しまれつつ荒野へと去っていくのが西部劇だろ! 夕陽に向かって去っていく野原一家とカスカベ防衛隊に向かって、町の子供が「しんちゃ〜ん、カムバーック!」と叫ぶシーンを見せてくれよ! しんちゃんたちは虚構世界で味わった甘美な思いに後ろ髪引かれつつ、再び日常の中に戻っていく。それが映画ってものなんじゃないの?

 きっとこの映画を作った水島努監督は、映画が好きではないのだろう。原恵一監督時代に虚構世界の抗いがたい魅力で大人の観客を引き寄せたこのシリーズは、今やまったく別のものになってしまったようだ。

4月17日公開予定 日劇2他・全国東宝系
配給:日劇2
2004年|1時間35分|日本|カラー
関連ホームページ:http://www.shinchan-movie.com/
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