花はんめ

2004/04/23 映画美学校第2試写室
「はんめ」とは朝鮮語で「おばあさん」という意味。
映画終盤の混乱がちょっと残念だ。by K. Hattori

 川崎市桜本の民家に、連日集まる在日一世のはんめ(おばあちゃん)たち。彼女たちは世間話に花を咲かせ、共に飯を食い、茶を飲み、三々五々自宅に戻っていくのだが、翌日になるとまた同じ家に集まってくる。この集まりの中心にいるのは、皆から「清水の姉さん」と呼ばれる在日一世のソン・プンオク(孫分玉)というおばあちゃんだ。17歳で日本に渡ってきて以来、苦労しながら8人の子供と孫を育てて78歳まで働きづめだったという彼女は、家を訪ねてきた仲間たちをいつだって丁重に迎える。

 監督は大阪・鶴橋出身の金聖雄。別件の仕事でこの映画に登場する在日のおばあさんたちに出会い、その無邪気なはしゃぎっぷりにすっかり引き込まれてしまった金監督は、それから4年にわたって彼女たちを追いかけ回すことになったのだという。映画は彼女たちが在日朝鮮人として生きてきた苦労話などを少しずつ証言として盛り込みながら、決して過去の話には深入りしていかない。またおばあさんたちの交流をこれだけ丁寧に追いかけながら、彼女たちと家族の関係をほとんど映画に取り入れていない。おそらく取材課程では、そうした素材も有り余るほど集められたに違いないのだ。でも金監督は、そうしたものを映画から完全に切り捨てている。

 笑いの絶えないこの映画からににじみ出てくるのは、同じ苦労をした者同士の連帯感だ。映画の中ではほとんど何も語られないのだが、出身地も違えば育った環境も違うという彼女たちが、これほど親しくなれてしまうという現実の「核」には、やはり彼女たちが背負ってきた共通の人生体験があるとしか思えないのだ。清水の姉さんことソン・プンオクさんがグループの中心人物になっているのは、彼女が独り暮らしだから気兼ねなく家を訪問できるということもあるだろうし、彼女が仲間たちを心から歓迎して食べ物や飲み物を振る舞ってくれるということもあるとは思うが、それ以上に彼女の通ってきた人生そのものが、仲間たちを惹きつけている面もあるのだろう。仲間にとって清水の姉さんは、何も言わずとも自分たちの境遇や気持ちをわかってくれる人だったに違いない。

 ドキュメンタリー映画としてはまとまりが悪い。それは特に、映画の終盤で清水の姉さんがすっかり弱ってきてから顕著になる。この監督はグループの一員で日本語と朝鮮語のチャンポンで会話するキム・スンニョ(金順女)さんの死については描けても、映画の中心人物だった清水の姉さんの死については映画に取り込むことを避けてしまうのだ。当然取材をしていたはず。当然一度は映画の中に組み入れたはず。なのになぜ、最終的に映画からこの事実を放り出してしまったのか?

 おそらく金監督の編集のハサミは、涙で濡れて切れ味が鈍ったのだ。気持ちはわかるが、ここは「映画作家」として毅然とした対応を見せてほしかった。きっと監督はすごくいい人なんだろうけどね。

6月20日上映予定 川崎桜本・桜本小学校体育館
7月10日上映予定 横浜西公会堂 他
配給・宣伝:『花はんめ』上映委員会、ヒポ コミュニケーションズ
2004年|1時間40分|日本|カラー|16mm
関連ホームページ:http://www.hanahanme.com/
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