ヒッチ・ハイク

溺れる箱船

2004/04/20 映画美学校第2試写室
偶然ひろったヒッチハイカーは凶暴な男だった……。
寺島進主演の和製『ヒッチャー』。by K. Hattori

 保険会社勤務の姿俊夫は、昇進と引き替えに北海道に単身赴任している。その日は東京から北海道にやってきた妻・麗子と、千歳空港で半年ぶりの夫婦再会だ。だがこの夫婦の仲は、もはやすっかり冷め切っている。単身赴任中に夫の俊夫は愛人をつくり、夫婦の電話連絡も疎遠になりはてているのだ。そんなふたりを乗せた車の前に、突然ひとりの男が飛び出してくる。車が故障して立ち往生していたというその男は土下座して謝りながら、どこか連絡が付くところまで自分を乗せていってくれと言う。男を乗せた俊夫の車は近くの食堂に入るのだが、その店の電話は不通だった。やむなくさらに先まで男を乗せて走る俊夫たちだったが、その頃から男の口調がやけになれなれしく無遠慮なものになってくる。俊夫は車を止めて男を車外に放り出そうとするのだが……。

 たまたま乗せたヒッチハイカーがじつは凶暴な男だった……という、ルトガー・ハウアー主演のサスペンス映画『ヒッチャー』の日本版みたいな映画。ただし車を運転するのは少年の面影を残す青年ではなく、倦怠期を迎えた夫婦になっている。凶暴なヒッチハイカーを演じるのは小沢和義。善意があだとなって殺されそうな目に遭う夫婦役に、寺島進と竹内ゆう紀。夫婦の車を追跡する謎の男に、『ばかのハコ船』『リアリズムの宿』の山本浩司。基本的に登場人物はこれだけだ。監督は『飼育の部屋/終のすみか』『HEAT/灼熱』の横井健司。脚本はプロデューサーの永森裕二と、KAZUこと小沢和義の共同名義。

 日本でも場当たり的な誘拐連れ回し事件やストーカー犯罪などが頻発しているわけで、この映画に描かれているような出来事も、まったく荒唐無稽な絵空事というわけではないだろう。これは十分に「あり得る話」なのだ。だが僕はこの映画を観ていても、その「あり得る話」に少しのリアリティも感じられなかった。話の大枠は「あり得る話」なのに、細部がまるでウソだらけに感じてしまったのだ。

 まず話の運びが強引すぎる。殺人ヒッチハイカーの行動が、あまりにも「幸運」の上に成り立っているのが気になって仕方がない。例えば時速100キロを超える速度で走る車の前に突然飛び出していくとか、車が走っている道がたまたまずっと携帯の圏外になっているとか、人質となっている夫婦に弾を込めたままの銃を無造作に渡したり……。この人質夫婦は、逃げようと思えばいつだって逃げられるじゃないか。なぜ逃げないの? こうした部分は少し話を工夫すれば塞げる穴なのだから、脚本段階できちんと手当をしてほしい。

 人影がほとんど見えない北海道の広大な風景が背景にあってこそ成り立つ物語だと思うが、ビデオ撮影では風景の空気感が伝わってこない。これじゃ北海道ロケの意味がない。ビデオで撮るなら、逆に都会の雑踏の中でも成立する話に作り替えて、ビデオ映像の臨場感をプラスにしてほしかった。

初夏公開予定 ユーロスペース(レイト)
配給:バイオタイド
2004年|1時間23分|製作国|カラー|ビスタサイズ|ステレオ
関連ホームページ:http://www.fullmedia.co.jp/hitch/
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