『キリクと魔女』のミッシェル・オスロ監督作。もともとTVシリーズ「もしもの映画」のために作った短編アニメの中から、王子と王女にまつわる物語ばかりを集めた全6話のオムニバスだ。未来の映画館か図書館のような場所で、少年と少女が王子と王女の物語を自作自演していくという設定をブリッジにして、時代も場所も異なる小さな物語が連鎖していく。
あいにく試写の日は疲れ気味で中盤3話は夢うつつ状態だったのだが、はっきり目覚めて観ていた第1話「プリンセスとダイアモンド」、第2話「少年といちじく」、最終話「プリンス&プリンセス」を観ただけでも、この映画が素晴らしく完成度の高い傑作であることがわかる。以下、この3話についての感想。
「プリンセスとダイアモンド」は、魔法をかけられたプリンセスの物語。草むらの中のダイアモンドに指を触れた途端、音楽と共にプリンセスが現れる。彼女が持つ砂時計の砂がすべて落ちきる前に、111個のダイアを見つけられなかった者はアリにされてしまうのだという。ひとりの騎士はこの賭けにチャレンジしてあっけなくアリに。その様子を見ていた若い従者は、プリンセスの制止も聞かずにダイアを集めようとするのだが……。影絵風の絵の中で、キラリと輝くダイアモンドが印象的。
「少年といちじく」の舞台は古代エジプト。季節はずれに実ったイチジクを女王に献上しようとした少年に、女王は多大な褒美を与える。これを妬んだ大臣は、少年を女王から遠ざけようと策略を巡らせるのだが……。少年が女王にイチジクを献上する場面で見せる極端にへりくだった態度と、女王がイチジクを食べるシーンのエロティックなこと! 隷属、献身、美食、暴力……。なんだかサド&マゾヒスティックな世界です。
3話の「魔女」、4話の「泥棒と老婆」は記憶なし。5話の「冷酷なプリンセス」は、影絵風のアニメでなければ成立しない物語かもしれない。最終話「プリンス&プリンセス」は、王女のキスでカエルが王子に変身する物語の反対。愛し合う王子と王女がキスをすると、なんと王子がカエルに変身してしまうのだ。これに驚いて再びふたりがキスをすると、今度は王女がナメクジに変身。こうしてふたりがキスをするたびに、ふたりの姿が次々に変わっていく。最後はぐるりと回って王子と王女に戻るのだが、ここにかなり痛烈なオチが付いている。これは面白かった。
試写はフランス語の台詞に日本語字幕だったが、日本語吹替え版は原田知世と松尾貴史が声を担当するそうだ。うっかり見落としてしまったエピソードもあることだし、劇場で日本語版を観てみようかなとも思う。もしくはDVDを購入しようかな。作品の完成度が高い上に短編オムニバスなので、これはDVDでも繰り返し観ることができると思う。もともとテレビ向けの作品だし、画面の大きい小さいはあまり関係ないでしょう。
(原題:Princes et Princesses)