天国の本屋〜恋火

2004/04/06 松竹試写室
篠原監督の『月とキャベツ』が好きな人はこれも必見。
泣かせどころ満載のファンタジー。by K. Hattori

 つい先日観た『深呼吸の必要』には失望させられた篠原哲雄監督だが、この『天国の本屋〜恋火』はなかなかの映画だ。96年に篠原監督が撮った『月とキャベツ』の感動が、作品規模をずっと大きくしてよみがえっている。松久淳と田中渉が手がけた「天国の本屋」シリーズの映画化だが、生者と死者がつかの間の交流をして共に再生していくドラマは、モチーフもテーマも『月とキャベツ』の延長上にあると思う。新鮮味はないのだが、『月とキャベツ』より配役が豪華だし、登場人物も多く、エピソードもかっちりとうまくまとめ上げられている。篠原監督はずっと上手くなっているのだ。ラストは数多い「花火でおわる映画」の中でも、屈指の名場面に仕上がっている。『月とキャベツ』では主演の山崎まさよしが音楽を担当していたが、今回の音楽担当は松任谷正隆と松任谷由美。

 仕事をクビになった若いピアニストの健太は、気が付くと天国の本屋にいた。彼はそこで子供時代の自分にピアノの魅力を教えてくれた、桧山祥子というピアニストと知り合う。「ここって本当に天国なんだ」と感動で一杯の健太は、祥子が作曲した未完のピアノ組曲を一緒に仕上げる仕事を始める。同じ頃、祥子の姪にあたる長瀬香夏子は、町内会で10年ぶりに復活する花火大会の準備に追われていた。10数年前まで大会の名物だったという「恋する花火」を大会の目玉にしようと花火工房に掛け合いに行った彼女は、そこで「恋する花火」を作っていた瀧本という元花火師を紹介される。じつはその瀧本こそ、生前の祥子の恋人だった男なのだ。彼の不注意で耳の聞こえなくなった祥子が亡くなって以来、瀧本は荒んだ生活をしていたのだが……。

 この世に思いを残して死んでしまった女と、死んでしまった女に心を残しながらも生き続けねばならない男。ふたりの感情の行き違いから生まれた誤解と罪の意識だけが、死別から10数年を経ても互いを縛り続けている。それを解きほぐすきっかけを作るのが、天国の本屋に送られた健太であり、「恋する花火」を作らせようと奔走する香夏子なのだ。こうした物語では普通、連絡が途絶えた関係を仲立ちする人物が現れるのが常だが、この物語ではそれがない。祥子の思いは天国を一時訪問中の健太と組曲を完成させるという関係の中で解放され、瀧本の思いは香夏子の働きかけと「恋する花火」の中で解放される。祥子と瀧本の関係は途切れたままだ。だがそれが最後の最後に、ひとつに結びついていく奇跡。

 玉山鉄二演じる健太は物語の狂言回し。由衣とサトシのエピソードも脇役。この映画の中心になっているのは、竹内結子演じる祥子と香川照之演じる瀧本のラブストーリーなのだ。ピアノを弾けないピアニストと、花火の作れない花火師の再生ドラマ。これは歌えない歌手が再生していく『月とキャベツ』の2倍泣ける。ふたりが泣くシーンでは、観ている側もついホロリだ。

6月5日公開予定 全国ロードショー
配給:松竹
2004年|1時間51分|日本|カラー|ビスタサイズ
関連ホームページ:http://h-bs.jp/
ホームページ
ホームページへ