深呼吸の必要

2004/03/31 日本ヘラルド映画試写室
ドラマの構成はオーソドックスだがエピソードがスカスカ。
ロケ撮影ではなく、ドラマに厚みがほしい。by K. Hattori

 2月下旬。沖縄の小島に渡ってきた5人の若者たち。彼らは日当5千円のバイト代で農家のサトウキビ収穫を手伝う「キビ刈り隊」として、初めてこの島にやって来たのだ。5人が寝泊まりする平良家には、年老いたおじいとおばあの他に、キビ刈り隊のリーダー格である田所という青年がひとり。彼の指揮指導のもと、翌朝から早速キビ刈りが始まる。見渡す限りのキビ畑を、35日間ですべて刈り上げるのがこの仕事のノルマだ。慣れない力仕事にふらつきながら、はたして彼らはこの仕事を成し遂げることができるのか……。

 詩人・長田弘の同名詩集からタイトルを借りて書かれたオリジナル脚本を、『月とキャベツ』『初恋』の篠原哲雄監督が映画化。出演しているのは田所役の大森南朋を筆頭に、香里奈、谷原章介、成宮寛貴、金子さやか、久遠さやか、長澤まさみといった若手ばかり。おじいとおばあを演じる北村三郎と吉田妙子が、「なんくるないさ〜」とこの若者たちを優しく包み込む。

 島に来た若者たちがろくすっぽ挨拶もできないイマドキの青少年ばかりで、始めから反抗心や敵意がむき出し。しかも平良家のルールは、自分の過去について話したくないことは話さなくていいとのこと。そんなこともあってか平良家に集まった若者たちは、それぞれが過去に何かしらのいわく因縁を持つ者ばかりなのだ。このキビ刈り隊は農村でのアルバイトというより、むしろ外人部隊の趣がある。本土で心に傷を受けた者たちが、それまでの生活から逃げ出し、自分自身を取り戻すためにやってきたのが沖縄のサトウキビ畑というわけ。しかもこいつらがまた、互いの傷をほじくり合うようによくしゃべること! 映画はいつしかNHKのトーク番組「真剣10代しゃべり場」のごとき様相を呈してくる

 こうした青春群像劇はいかにもありがちなパターンで、僕は観ていてちょっと恥ずかしくなるような気さえした。しかも取り上げられている個々のエピソードに、何の目新しさも現代性も感じられない。要するに古くさいのだ。しかしまぁ映画は「今この瞬間」のものだから、今の若い観客には今のタレントが出演する今の映画が必要なのかもしれない。「こんな映画は昔もあった」と言ったところで、そんなことは今の観客には通じないのだ。

 篠原哲雄監督の演出はオーソドックスだが、オーソドックスすぎて脚本の欠点や弱点も容赦なくさらけ出してしまう。脚本の上で未消化なままになっている人物は、映画の中でもやはり魅力的な人物にはなっていないのだ。映画最大の欠点は、物語の狂言回しとなる立花ひなみというキャラクターに、まったく魅力的なエピソードがないことだろう。他の人物たちと異なり、彼女は何のためにキビ刈り隊に参加したのかさっぱりわからない。ロケーション撮影の効果もあって爽やかな後味の映画にはなっているのだが、ドラマがこれでは、やはりダメな映画と言わざるを得まい。

5月29日公開予定 シネ・リーブル池袋、新宿ジョイシネマ他
配給:日本ヘラルド映画、松竹 宣伝:P2
2004年|2時間3分|日本|カラー|スコープサイズ|ドルビーSR
関連ホームページ:http://www.herald.co.jp/
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