永遠の語らい

2004/02/26 東宝第1試写室
マノエル・ド・オリヴェイラ監督による現代文明論。
船旅による文明散策の先にあるものは……。by K. Hattori

 マノエル・ド・オリヴェイラ監督の新作は、大学教授の母と娘の旅に同伴する形で、観客を豪華客船の旅に連れ出してくれる。旅の出発点はポルトガル北部の港町ポルト。大航海時代に数多くの船乗りたちが、ここからアジアや新大陸へと乗り出して行った。船はそこからイベリア半島沿いに南下し、リスボン、マルセイユ、ポンペイ、アテネ、イスタンブール、エジプト、アデンへと旅は続く。母親が大学の考古学教授という設定で、彼女が娘に対していろいろな歴史のエピソードを解説してくれる。寄港地もあえて歴史に関わりの深い場所が選ばれており、この旅はヨーロッパ文明の源流をたどる旅にもなっている。

 船旅の物語だが、映画の中に船の上のシーンはほとんど登場しない。映画の中盤までは、ほとんどが港周辺と遺跡ばかりで、移動する海上のシーンは省略されている。映画の中でさかれている時間は、圧倒的に陸の上の方が多い。この映画は船の旅の物語だが、それ以上に「歴史をたどる旅」であることを強調しているのだろう。船がイエメンの港アデンを過ぎると、ここからようやく物語は船の上が舞台になる。

 カメラは一度主人公の母娘から離れて、船長のテーブルに集まった3人の女たちにフォーカスを合わせる。ジョン・マルコヴィッチ演じる船長はアメリカ人。そこに、カトリーヌ・ドヌーヴ演じるフランスの社長夫人、ステファニア・サンドレッリが演じるイタリア人の元一流モデル、イレーネ・パパス演じるギリシャ人の大歌手が顔を揃えている。彼女たちは国際舞台で活躍する教養の持ち主と言うこともあり、それぞれの言葉をそのまま理解できるという設定。テーブルではフランス語、イタリア語、ギリシャ語、そして英語がごく自然に話されている。

 じつはこの顔ぶれは、古代から現代まで続く文明の代表でもあるのだ。古代のギリシャ文明、それを引き継ぐイタリアのローマ帝国、その後に隆盛を極めたフランス、そして現代の覇者アメリカ。やがてこのテーブルに、ポルトガル人の母子も加わってくる。ここには時代と地域と言葉を超えた、つかの間の「文明の交流と一致」がある。

 のどかな船旅の映画は、最後に一変する。これは9・11を踏まえた「文明の衝突」についての映画なのだ。「文明の交流と一致」のテーブルから排除されていたのは誰か? そこに対話は成立するのか? 対話なき衝突の末に、犠牲になるのは誰なのか?

 このラストシーンを唐突に感じる人もいるかもしれないが、これは映画の最初から用意周到に準備されたことだということがわかる。船旅の乗客たちはすべて欧米の豊かな白人ばかりで、たとえそこが多国籍・他民族に見えたとしても、そこから排除されている「文明」や「世界」があるという事実。「ユダヤ・キリスト教世界の異母兄弟」であるはずのアラブ世界は、紅海を進む真っ暗な船の上からは見えないのだ。

(原題:Un Filme Falado)

GW公開予定 シャンテ・シネ
配給:アルシネテラン
2003年|1時間35分|ポルトガル、フランス、イタリア|カラー|1:1.66ヴィスタサイズ|ドルビーSRD
関連ホームページ:http://www.alcine-terran.com/
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