dot the i
ドット・ジ・アイ

2004/02/19 メディアボックス試写室
独身最後のパーティで運命の恋人に出会ってしまった女性の運命。
ビデオ映像を巧みに使ったサスペンス・ミステリー。by K. Hattori


 ロンドンで恋人バーナビーと同棲しているカルメンは、彼から結婚を申し込まれて天にも昇る気持ち。バーナビーは相続した遺産で悠々と暮らす好青年で、彼との暮らしは彼女に大きな安らぎを与えてくれていたのだ。結婚を祝福する友人たちは彼女のために独身最後のパーティ(ヘン・ナイト)を開く。フランスの古い風習によれば、花嫁がヘン・ナイトでその場にいた男性と独身最後のキスを交わせば、彼女は結婚生活での幸福が約束されるという。カルメンがその場でキスの相手に指名したのは、偶然同じテーブルに同席になった青年キット。周囲にはやし立てられながら、はにかみながらキスを交わすふたり。だがカルメンはキットと唇を触れあった瞬間、電撃的に新しい恋に落ちたことを確信する。

 ヒロインのカルメンを演じているのは、アルゼンチン出身のナタリア・ヴェルベケ。運命の恋人キットを『天国の口、終わりの楽園。』や『アマロ神父の罪』のガエル・ガルシア・ベルナルが演じ、婚約者バーナビーを『マスター・アンド・コマンダー』のジェームズ・ダーシーが演じている。監督はこれが長編デビュー作となるマシュー・パークヒル。彼はパリのレストランで偶然ヘン・ナイト・パーティを目撃したことから、このミステリアスな物語を着想したという。

 映画ではキットが常に小型のビデオカメラをもてあそび、劇中にもしばしばビデオ撮影された映像が挿入される。最近は予算や撮影条件の問題で、一般の映画でもビデオ撮影が利用されることが多いが、この映画ではフィルム撮影された映像とビデオ撮影された映像の差異が、物語の後半で明らかにされる大きなトリックの複線になっている。カルメンを見つめるビデオカメラの視線は、いったい誰のものなのか? それはスペインから彼女を追ってきた元恋人のものなのか? それとも彼女の被害妄想を象徴的に現したものなのか? それとも……、それとも……。

 三角関係のドラマとしては、婚約者バーナビーの人物像がやや平板で面白味に欠ける。この役がもっと豊かにならないと、「映画」は面白くならないのではないだろうか。ドラマの後半ですべての舞台裏が一気に明らかにされるシーンになって、いきなり感情の起伏が大きい大芝居をされても、それ以前のバーナビー像とうまくつながらない。もちろんこれは、うまくつながらないことも含めてこうした人物像を作っているわけだが、観ていても胸の中に何かしらモヤモヤとした違和感が残るのだ。

 しかしこのモヤモヤも、最後のドンデン返しで一気に解消されてしまう。実際にこれほど鮮やかに物事が進行するかは疑問だが、観客は胸のモヤモヤがここで解消されるカタルシスに酔うことを優先させるため、その疑問には目をつぶる。これこそ、観客と作り手の間に巧妙な共犯関係が成立した瞬間だ。ここで映画から差し伸べられた手を拒否する人は、この映画を楽しめまい。

(原題:dot the i)

初夏公開予定 シネセゾン渋谷
配給:エスピーオー 宣伝:P2
2003年|1時間32分|イギリス、スペイン|カラー|ビスタサイズ|ドルビーデジタル
関連ホームページ:
http://www.cinemart.co.jp/

DVD:ドット・ジ・アイ
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