熊笹の遺言

2004/02/05 映画美学校第2試写室
ハンセン病の療養所に今も残る元患者たちを取材したドキュメンタリー。
もう少し焦点が絞れるとさらによくなっただろう。by K. Hattori


 群馬県草津町にある国立ハンセン病療養所・栗生楽泉園で暮らす元患者たちを取材した、今田哲史監督のドキュメンタリー映画。日本映画学校の卒業製作作品として作られた1時間の映画。一時は1300人以上もの入所患者がいたという栗生楽泉園だが、現在の入所者は250名ほどだという。映画にはその中から、3人の元患者が登場する。らい予防法人権侵害謝罪・国家賠償請求訴訟で原告団代表として戦った谺(こだま)雄二さん。同じ訴訟に原告団として加わった、浅井あいさんと鈴木時治さんだ。

 国家賠償請求訴訟が原告側の勝訴に終わるまでは、マスコミ報道もそれまでのハンセン病政策の誤りや非人間性を糾弾し、原告である元患者たちの怒りや怨みの声を代弁するかのようなものが多かったように思う。だがこの映画が撮影されたのは2002年。裁判から1年がたち、元患者たちの間には平和で穏やかな日々が訪れているようにも見える。怒りと怨みの言葉はなく、そこにあるのは深い悲しみだ。たとえ裁判に勝ったとしても、踏みにじられた日々は二度と元通りにならないのだから……。

 熱しやすく冷めやすい日本のマスコミは時節のニュースを集中豪雨のように垂れ流すが、それが必ずしも一般に情報として浸透しているわけではない。ハンセン病の問題に関しては、つい最近もアイスターによるアイレディース宮殿黒川温泉ホテルへの宿泊拒否騒動が起きたばかりだ。国の差別政策の結果として、日本にはまだまだハンセン病に対する無知と偏見が残っている。だがそれはそれとして、この映画に登場する元患者たちは「残された今この時」を生きようとしている。傷つき苦しんできたものがたどり着いた諦観のようなものが、そこからは見えるような気もした。

 映画作品としては少々まとまりが悪いし、食い足りない部分もある。3人の元患者の話が特に密接につながりを持つわけでもないし、映画の後半では浅井あいさんと盲目の小学生の交流に話が及んで、視点が少しぐらついているようにも思えた。もしこうしたエピソードを入れるのなら、元患者たちの「今の暮らし」にだけ焦点を当てて、過去の差別的な政策や非人間的な患者の扱いなどについては、何か別の描き方がないかを検討してみてもよかったかもしれない。ドキュメンタリー映画として、主役となった3人の元患者たちの背景について解説しておくことは当然必要だと思うが、今この映画で描くべきなのは、彼らの「今」と「未来」ではないだろうか。
 
 元患者たちの「過去」の部分で感動的な証言も多く、それを切って捨ててしまうのは忍びないというのはわかる。谺さんと母親のエピソードには、誰だってホロリと来るだろう。結局これは、取材して集めた素材をどう配置していくかという構成や編集の問題なのかもしれない。卒業制作という制限はあっても、もう少し素材があると構成にも幅が出てきたように思う。

5月下旬公開予定 ユーロスペース
製作:日本映画学校卒業制作
2003年|1時間|日本|カラー|ビスタサイズ
関連ホームページ:
http://www.cinema-juku.com/kumazasa/

DVD:熊笹の遺言
関連DVD:今田哲史監督

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