しあわせの法則

2003/12/26 映画美学校第2試写室
音楽プロデューサーやミュージシャンと同居した若い女の見た世界。
生活描写はリアルに作り込まれているがドラマが弱い。by K. Hattori


 結婚を間近に控えたサムとアレックスは、誰もが認めるお似合いのカップル。サムは精神科の研修医としてロサンゼルスの病院で働くことになっており、遺伝子研究の博士論文を書いているアレックスと一緒に、ローレル・キャニオンの実家に間借りすることになった。ところが実家に着いてみると、空き家になっているはずの実家は大勢の人で賑わっている。音楽プロデューサーをしている母ジェーンの仕事が長引き、録音スタジオを兼ねた家には彼女とバンドメンバーたちが居座っているのだ。奔放な母親に振り回されることを嫌うサムはこれに苛立つが、アレックスは初めて出会った未知の世界に興奮気味。論文執筆に手が着かないまま、どんどんジェーンやバンドメンバーたちと接近していく。一方サムの方も、同僚の美人研修医から露骨な誘惑を受けてまんざらでもない様子なのだが……。

 ジェーンを演じているのはフランシス・マクドーマンド。『あの頃ペニー・レインと』でロック業界を取材する新米記者の息子を心配する母を演じた彼女が、この映画ではロック業界で名をはせる大物女性プロデューサーという正反対の役を演じている。若い頃から幾人もの男性女性と浮名を流し、息子を引っ張り回し続けた母。彼女に反発するように、息子のサムは医師という堅実な仕事に生きようと決意する。映画の中心テーマとなっているのは母親と息子の葛藤で、それはサムの患者のひとりがやはり同じように母親との葛藤を抱え込んでいることでもよくわかる。しかしこのテーマが、本当にこの映画で一番描きたかったことなのかというと、それはどうも違うらしい。

 映画が丁寧に描こうとしているのは、音楽業界で暮らすプロデューサー、ミュージシャン、レコード会社の重役といった人々の暮らしぶり。原題の『Laurel Canyon』というのはこの映画の舞台になっている土地の名前だが、映画はそこで暮らす音楽業界人の自由な暮らしぶりを、劇中で再現することに夢中になっている。映画が描こうとするのはそこで暮らす「人々の心情」ではなく、いかに暮らしているかという「ライフスタイル」なのだ。たまたまこの世界に足を踏み入れたアレックスは、「不思議な国のアリス」のように不条理で奇妙なワンダーランドを冒険する。

 この監督はデビュー作『ハイ・アート』でも、我々が普段知ることのない写真家の世界を丁寧に描いていた。この『しあわせの法則』でも、音楽業界にいる特殊な職業人を描くエピソードについては、じつにシャープでリアルなのだ。でもそこを土台にして人間同士の葛藤を描こうとすると、途端に描写の矛先が鈍くなる。恋愛における三角関係というごく基本的な物語が、確かな手触りのない無機質な物体として映画の中に投げ出されてしまう。こうした人間ドラマを、あと1歩でも半歩でも踏み込んで描いていくと、ずっと面白い映画になったように思うのだけれど……。

(原題:Laurel Canyon)

3月公開予定 ヴァージンシネマズ六本木ヒルズ系
配給:キネティック
(2002年|1時間44分|アメリカ)
関連ホームページ:
http://www.shiawasenohousoku.com/

DVD:しあわせの法則
サントラCD:Laurel Canyon
輸入ビデオ:Laurel Canyon
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