サンタ スモーク

2003/11/07 オーチャードホール
クリスマス商戦で賑わう街で、サンタと天使が恋に落ちた。
撮影予算1万ドルの自主製作映画。面白い。by K. Hattori


 今年の東京国際映画祭ではコンペに出品された15本のうち10作品を観たが、その中で一番面白かったのがこの映画だ。家庭用ビデオを使って撮影された自主製作映画。撮影に要した時間は12日間。撮影予算は1万ドル。予算不足で編集スタジオが正規料金で借りられず、編集作業にはかなり時間がかかってしまったという。でもこんな映画が100万円ちょっとで作れるというのは、これから映画作りを目指そうという人たちにとってはずいぶんと大きな励みになるんじゃないだろうか。

 売れない役者のジョニーは滞納している家賃や借金返済のため、サンタの扮装でビラを配るバイトを始める。みょうにプライドだけは高い彼にとって、この仕事は屈辱そのもの。サンタの格好のままでヤクを売ったり、タバコをふかしたりする素行の悪さだ。そんな不良サンタを見かねて声をかけてきたのが、やはり年の瀬の街頭で天使の扮装をしている若い女。「名前は?」とたずねるジョニーに、彼女は「エンジェル(天使)」と答える。それが本当なのか嘘なのかわからない。ふたりは翌日も同じ場所で会うことを約束して別れるのだが……。

 ジョニー役のティル・テラーが監督・製作・脚本・編集を兼任。共同監督のクリス・ファレンティーンも製作・撮影・衣装を兼務。ゲイのルームメイト、ジェイソンを演じたリチャード・グローバーは美術と録音のスタッフ。この映画がいかに小さな規模で撮影されていたのか、一目瞭然のスタッフとキャストの一覧表だ。

 物語はジョニーとエンジェルの接近とすれ違いを優しく暖かい視点で描きつつ、同時に辛辣で残酷な描写も忘れていない。サンタと天使が出会って恋に落ちるというファンタジーが、次の瞬間には生々しい俗世の現実に引き戻される。このメリハリが映画のユーモアを生んでいるのだ。恋をすれば、人はいつだってファンタジーの世界に入り込める。ルームメイトのジェイソンがひげを剃る時、彼はやっぱりファンタジーの世界にいるのだと思う。でもこの映画の中で、そのファンタジーは長く続かない。それがこの映画の残酷さだ。

 ビデオ撮りした画像はドグマ作品などにも似ているが、ドグマと違って音楽や編集についての制約がない分、この映画はかなり自由な表現を行っている。主人公たちの動きをストップモーションにして、そこに台詞を字幕でかぶせる表現がユニーク。これは同録した音声が使い物にならず、編集段階で苦肉の策として考え出したものだという。全体に粗削りな映画だが、その粗削りなところが魅力になっている作品。仮にこの映画を35ミリで撮ってきれいに編集しても、この面白さは出ないと思う。映画の内容と撮影スタイルがピタリと一致したのは、偶然なのか必然なのか。この規模でずっと作り続ける人なのか、あるいは大きな映画も撮れるのか。それを判断するには、この監督チームの次回作を観てみるしかない。

(原題:Santa Smokes)

第16回東京国際映画祭 コンペティション
配給:未定
(2003年|1時間22分|アメリカ)
ホームページ:
http://www.tiff-jp.net/

DVD:サンタ スモーク
関連DVD:ティル・テラー監督
関連DVD:クリス・ファレンティーン監督
関連DVD:クリスティン・ジーン・フルスランダー

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