アンダーワールド

2003/10/28 メディアボックス試写室
ヴァンパイアとライカン(狼男)が戦うアクション映画。
映像はいいけど物語の世界観に深みがない。by K. Hattori


 千年以上に渡って死闘を繰り返してきたヴァンパイア(吸血鬼)一族とライカン(狼男)族。数百年前にライカンの首領ルシアンが倒されてからも、ヴァンパイア族によるライカンの残党狩りが行われていた。ヴァンパイアの女戦士セリーンは、ある日ライカンたちがひとりの人間を執拗に追いかけていることに気が付いた。ライカン族の残党たちは、この人間を捕らえて何をしようとしているのか。その秘密を探ろうとしたセリーンは、ヴァンパイアとライカンの間にある重大な秘密を知ることになる……。

 ヴァンパイアと人間が戦う映画は無数にあるし、狼男と人間が戦う映画も山のようにある。しかし人間そっちのけで、両者が戦うという映画は珍しい。映画を観ているのは“人間”にとっては、ヴァンパイアが勝とうが狼男が勝とうが知ったことではないのだから、これは当然のことだろう。人間が火星人と戦えば映画になるが、火星人が金星人と戦っても映画にならないのと同じだ。この映画は観る人たちを物語に引き込むフックとして、ヴァンパイアと狼男がひとりの“人間”を巡って争うというストーリーを作っている。しかし闇で暮らす魔の者たちと人間の関わりがその程度では、物語が観客を引き込む力が不足していると言わざるを得ない。

 つまらない映画ではない。映像はシックでスタイリッシュ。矢継ぎ早に大小のアクションシーンを繰り出して、映画は最初から最後まで見せ場がたっぷり詰め込まれている。しかしそれによって、物語の弱さが克服されるわけではない。吸血鬼映画としては『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』や『ブレイド』の亜流にしか見えないのだ。

 そもそもこの映画、主人公が吸血鬼や狼男である必然性がどこにあるのだろう。この映画ヒロインは人間離れした運動能力を持っているが、変身するわけではないし、空を飛ぶわけでもないし、壁や天井をはい回るわけでもない。(仲間のひとりが天井に張りついたが、これは天井にしがみついていたように見える。)長命で不死であることも、吸血嗜好があることも、能力が別の人間に伝染することも、この映画の中ではあまり大きな意味を持っていないようだ。

 吸血鬼や狼男は東欧や北欧の伝説にルーツを持ちながら、そのキャラクターには映画業界が長年に渡り豊かな肉付けをしてきた伝統がある。吸血鬼や狼男をモチーフに新しい映画を作るなら、そうした伝統的キャラクターのどこを尊重し、どこを改変したのかを明確にすべきだと思う。伝統的なキャラクターに固執することはないが、新解釈をするにも古典的なテキストの文脈は無視すべきではないと思う。血を吸わない吸血鬼は、はたして吸血鬼と呼べるのだろうか。伝統を無視して超人同士の戦いだけを描くなら、それは火星人と金星人の戦いと何も変わらないではないか。映像にはセンスが感じられるだけに、物語の野暮ったさが気になって仕方がない。

(原題:Underworld)

11月29日公開予定 日比谷映画他・全国東宝洋画系
配給:ギャガ・ヒューマックス共同配給
(2003年|2時間1分|アメリカ)
ホームページ:
http://www.underworld.jp/

DVD:アンダーワールド
サントラCD:Underworld (Score)
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