戀之風景

2003/10/22 映画美学校第2試写室
死んだ恋人が残した風景画の場所を求めて青島にやってきた女。
新しい恋の始まりを瑞々しいタッチで描いている。by K. Hattori


 香港でメイクの仕事をしているマアンは、恋人の画家サムと一緒に暮らしていた。だが幸せな時間は長く続かない。病気のために、彼はあっけなく死んでしまったのだ。死を前にして彼が残したのは、分厚い日記帳と1枚の風景画。マアンはその日記に丁寧に目を通しながら、サムが幼い頃にに見た記憶の中の風景を描いたという風景画の場所を探すため、彼の故郷・青島(チンタオ)に向かう。彼女はそこで出会った若い郵便配達人の助けを借りて、風景画の場所を探し求めるのだが……。

 日本でも『金魚のしずく』が公開されている、香港の女性監督キャロル・ライの新作ラブストーリー。主演は『カルマ』でレスリー・チャンの相手役を演じたカリーナ・ラム。彼女の思い出の中に現れる死んだ恋人サムを演じるのは、香港の人気俳優イーキン・チェン。青島で風景画の場所を探す手助けをする郵便配達の青年を、『山の郵便配達』『小さな中国のお針子』のリィウ・イェが演じている。香港では10月16日から公開されているのだが、なんと同日封切りの『キル・ビル』よりヒットしているというから驚き!

 キャロル・ライ監督の前作『金魚のしずく』は、香港の少年少女たちを取り巻く社会情勢をリアルに切り取るインディーズの社会派作品だった。今回の映画はそんな作風から打って変わり、直球勝負の恋愛映画になっている。前作は素材の生っぽさで勝負していたように思うのだが、今回は恋愛映画の常道をなぞる正攻法の演出に、この監督の持つ細やかな感性が光っている。過去の恋人との関係を回想するシーン(日記の再現)になると、急に画面に紗がかかって甘いトーンになってしまうことも含めて、この映画はなかなかよく考えられている。思い出はあくまでも甘美であり、永遠に光り輝き色あせないのだ。

 この映画に好感が持てるのは、男女が出会った瞬間のときめき、胸の中で広がっていく相手に対する好意、好意が恋に替わる瞬間のときめきなどを、きちんと映像にしてくれるからだ。大好きだった人の思い出を大切にしつつ、新しい出会いに心惹かれていくことの後ろめたさ。言葉や態度に出さずとも、互いの気持ちが通じ合う恋の不思議さと、その気持ちを言葉にすることができない苦しさ。この映画はこうした恋のプロセスを淡々と描いていくのだが、現在進行形の「恋の始まり」を丁寧に描いているのに対して、ヒロインと昔の恋人の関係は出会いから同棲までが一足飛びに描かれてプロセスが省略されている。こうした2つの関係の対比が、この映画に深みを与えているのだと思う。

 映画のエンディングも観客の意表をつくものだと思う。趣味で絵を描いている郵便配達人の作品を観客に伏せているので、最後の最後に何かあるとは思ったけれど、まさかこんな形になるとは思っても観なかった。この不意打ちが、グサリと胸に突き刺さって大きな感動を呼ぶのだ。

(原題:戀之風景 Floating Landscape)

第5回NHKアジア・フィルム・フェスティバル
12月13〜21日 東京都写真美術館ホール
宣伝・問い合わせ:アップリンク
(2003年|1時間40分|香港、日本)
ホームページ:
http://www.nhk.or.jp/sun_asia/

DVD:戀之風景
関連DVD:キャロル・ライ監督
関連DVD:カリーナ・ラム
関連DVD:リィウ・イェ (2)
関連DVD:イーキン・チェン

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