シービスケット

2003/10/15 よみうりホール
3人の男たちと出会って駄馬から名馬に変身した競走馬の実話。
不況から立ち上がっていく1930年代のアメリカ史。by K. Hattori


 世界恐慌をきっかけにアメリカ経済がどん底に落ち込んだ1930年代、人々を熱狂させた1頭の競馬馬がいた。その名はシービスケット。馬体が他の馬に比べて一回り小さく、しかもケガの後遺症で脚が少し曲がっているというハンデによって、厩舎でもほとんど見捨てられている馬だった。ところがこの馬が秘めた素質に、カリフォルニアの自動車販売会社のオーナー、チャールズ・ハワードの厩舎で働く調教師トム・スミスが目を付けた。気性の荒いシービスケットを手なずけ、やはり不遇の生活を送っていた騎手ジョニー・“レッド”・ポラードを乗せて走らせるや、小柄な馬はレースで連戦連勝の人気馬に変身する。

 競馬ジャーナリストのローラ・ヒレンブランドが書いた実録小説「シービスケット−あるアメリカ競走馬の伝説」を、『カラー・オブ・ハート』のゲイリー・ロス監督が映画化した作品。原作はアメリカでベストセラーになり、関連本やビデオ、DVDなども数多く発売されている。この映画もそうしたシービスケット・ブームの中で作られたものと言えるだろう。映画的な脚色はあるものの、登場人物のほとんどは実在の人物だ。もちろんシービスケットも実在の馬で、映画に描かれたように当時は非常に人気があったらしい。1949年にはシャーリー・テンプル主演で、『The Story of Seabiscuit』という映画が作られたほどだ。

 今回の映画は実録だが、そこで展開するドラマは並の映画以上にドラマチックだ。主人公は3人の男と1頭の馬。その誰もが、厳しい時代の中で心や身体に深い傷を負っている。この映画は彼らが力を合わせて勝利を勝ち取る姿を、不況から脱出するアメリカの奮闘ぶりと重ね合わせて描く趣向になっている。名馬ウォーアドミラルとの勝負は、過去から受け継いだ資産の上であぐらをかいている旧体制に対して、下からはい上がってきた新世代が挑んだ戦いでもある。そこで語られるキーワードは「未来」だ。

 劇中での競馬シーンは撮影に数々の困難があったと思われるのだが、それを見事に克服してドラマチックで力強いレース場面を作り上げた。ウォーアドミラルとのマッチレースなど、主人公たちが勝つとわかっていても手に汗握ってしまう。ドラマ部分もよく練られている。小さな子供のオモチャや本を使って、ハワードとレッドの疑似親子関係を浮かび上がらせていくあたりはうまい。競馬の映画ではあるが、競馬や馬にまったく興味がない人にも共感できる人間ドラマとなっている。恋愛ドラマを割愛して、男たちの話に集中させたのもいい。世代も境遇も違う男たちの絆は感動的だ。

 物語は1940年の復活レースでエンディングとなり、その後の主人公たちのエピソードは語られない。アメリカは翌年から戦争に突入して覇権国家を目指すようになるので、この頃合いで物語を切り上げるのが一番いいタイミングでもあったろう。

(原題:Seabiscuit)

正月第2弾公開予定 スカラ座1他・全国東宝洋画系
配給:UIP
(2003年|2時間21分|アメリカ)
ホームページ:
http://www.uipjapan.com/seabiscuit/

DVD:シービスケット
関連DVD:シービスケット 栄光の真実 (ドキュメンタリー)
サントラCD:Seabiscuit
ビデオ:Seabiscuit関連
原作:シービスケット−あるアメリカ競走馬の伝説
原作洋書:Seabiscuit: An American Legend
関連DVD:ゲイリー・ロス監督
関連DVD:トビー・マグワイア
関連DVD:ジェフ・ブリッジス
関連DVD:クリス・クーパー

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