ブラウン・バニー

2003/10/08 ムービーテレビジョン試写室
ヴィンセント・ギャロの監督作第2弾。共演はクロエ・セヴィニー。
この映画のすべてはラスト3分間のためにある。by K. Hattori

 長編デビュー作『バッファロー'66』以来5年ぶりとなる、ヴィンセント・ギャロ監督の新作長編映画。才人ギャロは本作でも、製作・監督・原案・脚本・美術・撮影・キャメラ・編集などを担当。要するにこの映画は、どうしても必要なスタッフ以外は、ギャロ自身が全部自分で作ってしまった映画なのだ。カンヌ映画祭では上映時間が2時間近かったようだが、その後再編集して、完成版は1時間33分という上映時間になっている。

 バイクレーサーのバド・クレイは、ニューハンプシャーでのレースを終えた後、次のレース会場であるカリフォルニアに向かってバンを走らせる。同乗者のいない孤独な旅だ。途中のガソリンスタンドで店番の少女を旅に誘ったり、街娼に声をかけたりするものの、結局彼が女性と関わりを持つことはない。彼の心に今でも引っかかっているのは、別れてしまった恋人デイジーのこと。バドは幼なじみの彼女と一時カリフォルニアで暮らしていたことがある。誰にも邪魔されることのない幸せな暮らし。だが今はこうして、ふたりが離ればなれになっている。カリフォルニアに戻ったバドは、デイジーと再会するためかつての自宅を訪ねるのだが……。

 ヴィンセント・ギャロ演じるバドが画面に出ずっぱりなのだが、説明らしい台詞や芝居がほとんどない。1時間半の映画のうち最初の1時間ほどは、映画を観ていても事情がまったく飲み込めないのだ。これはわざとそうした構成になっている。時折挿入される小さな描写から、バドとデイジーの関係が少しずつ浮かび上がってくる。しかしそのどれもが不明瞭で歯切れが悪い。物語が急展開するのは映画終盤の20分から30分ほどであり、すべてが観客の前に明らかにされるのは最後の3分。物語がここに至ったとき、映画の残りすべては、この3分間のための助走であったことが明らかになる。

 デイジーを演じているのは、『ボーイズ・ドント・クライ』でオスカー候補になったクロエ・セヴィニー。彼女がヴィンセント・ギャロと演じたラブシーンはかなり強烈。僕はこのシーンを観ながら、「最近の女優さんというのは、コンナコトまでしなくてはならんのか……」と考え込んでしまった。この映画のによって、これまで映画の解説などで繰り返し使われてきた「体当たりの熱演」という言葉は、いきなり陳腐なものになってしまった。この映画を観た人に対して、オッパイ見せた程度で「体当たりの熱演」なんて言ったら笑われちゃうよ。それにしても、デビュー作『KIDS/キッズ』ではにかみながらH談義に花を咲かせる女子高生を演じたセヴィニーが、こうして実際にコンナコトをしている姿を見るとは思わなかったなぁ……。

 中盤までは退屈な映画だと思っていたものの、このラブシーンで一気に目が覚めた。しかしこの強烈なラブシーンでさえ、ラスト3分への助走なのです。なんという映画だ!

(原題:The brown bunny)

11月中旬公開予定 シネマライズ
配給:キネティック
(2003年|1時間33分|アメリカ、日本)
ホームページ:
http://www.brownbunny.net/

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