モロ・ノ・ブラジル

2003/10/02 TCC試写室
ブラジル音楽の源流から現在までをたどる音楽ドキュメンタリー。
サンバは今も進化し続けるブラジル音楽の集大成だ。by K. Hattori

 フィンランドの映画監督ミカ・カウリスマキが、大好きなブラジル音楽の源流から現在までをたどった音楽紀行ドキュメンタリー映画。映画は厳冬のフィンランドから始まり、ブラジル山間部のインディオの村へとジャンプ。そこで守られている先住民たちのダンスを振り出しに、海の向こうからやってきたアフリカやポルトガルのリズムと合流し、最後に大都会リオ・デ・ジャネイロできらびやかなサンバが開花する。

 映画は「ブラジル音楽」をテーマにして各地で取材したエピソードや演奏を串刺しにしているのだが、そこから浮かび上がってくるのはブラジルが抱えている貧困という別のテーマだと思う。大げさな言い方をするならば、ブラジルの貧困が現在のブラジル音楽を作り上げたのだ。侵略者たちに滅ぼされかけたインディオたちの伝統音楽。ヨーロッパから持ち込まれた音楽。アフリカから来た奴隷たちの音楽。それらが「貧困」の中で手を取り合って、現在のブラジル音楽に通じるリズムを生み出していく。

 最初に登場するインディオのダンスグループは、周囲に迫ってくる外来文化に飲み込まれることに対抗する武器として、自分たちの音楽とダンスを守り続けようとしている。リオ・デ・ジャネイロの新進ミュージシャンたちは、自分たちを縛る貧しさから逃れるための武器として、音楽の必要性を感じている。貧しいインディオたちの誇りと、リオのストリートチルドレンの矜持とは、ブラジル音楽特有のリズムでつながり合っているのだ。

 99年のブラジル映画『オルフェ』はリオ・デ・ジャネイロのスラムで暮らす天才ミュージシャンの話だったが、この映画でリオを取材した部分には『オルフェ』を彷彿とさせるシーンがいくつもあった。丘の上にあるスラムから眼下に広がるリオを背景に、ミュージシャンがギターをつま弾くシーン。子供たちがギャングになったり売春に走ったりするのを防いで自立の機会を与えるため、音楽やダンスを子供たちに教えようとする人々。音楽家として成功しても、「子供たちには成功のモデルになる人間が必要なんだ」と物騒なスラムでの暮らしを続ける若いミュージシャン。こうしたブラジルの現実と音楽のつながりを見せられると、さして面白いとも思えない映画『オルフェ』がなぜブラジルで大ヒットしたのかがわかる。『オルフェ』はブラジルの現実そのものなのだ。

 ブラジルでもサンバは一時廃れたものの、最近はまた復権して若いミュージシャンたちが大勢現れ、往年のベテラン歌手たちも何十年かぶりにCDを出したりコンサートをしたりしているそうだ。老ミュージシャンたちが余裕たっぷりに歌うシーンは、日本でも大ヒットした音楽ドキュメンタリー『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』に匹敵する気持ちよさ。普段は仕立屋をしているヴァウテル・アウファイアッチの渋さにはしびれる。マンゲイラ地区のおばあちゃんたちもスゴイ!

(原題:MORO NO BRASIL)

冬公開予定 渋谷・シネマ・ソサエティ
配給・宣伝:アルシネテラン
(2002年|1時間45分|ドイツ、フィンランド、ブラジル)
ホームページ:
http://www.alcine-terran.com/main/moro.htm

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