HELL/ヘル

2003/09/24 松竹試写室
ヴァン・ダムとリンゴ・ラム監督の三度目のコンビ作。
定番すぎる刑務所もので新鮮味は薄い。by K. Hattori

 『マキシマム・リスク』『レプリカント』に続く、ジャン=クロード・ヴァン・ダムとリンゴ・ラム監督のコラボレート作品。ロシアでエンジニアとして働くアメリカ人技術者カイル・ロードは、強姦目的で妻を殺した男が判事を買収して無罪になったことに怒り、復讐のため裁判所内で犯人を射殺した。犯人にふさわしい報いを与えるための当然の行為。だがそれによってカイルは終身刑の判決を受け、凶悪犯ばかりが集まるクラヴァヴィ刑務所に収監される。そこでは刑務所長や看守たちが凶暴な囚人たちを平然と虐待し、囚人同士を戦わせる「スパルカ」という競技で敗者が殺されるこの世の地獄だった。カイルは古参の囚人や看守に反抗してしばしば独房に放り込まれるが、やがてこの地獄を生き延びるために自らスパルカに出場するようになる……。

 この映画のヴァン・ダムはスーパーマンではなく、ごく普通の肉体を持った平凡な男として登場する。正義感と負けん気の強さで古参の囚人に抵抗しても、非力な肉体は直接的な暴力に弱い。筋骨たくましい刑務所内ギャングたちにかかれば、簡単にひねりつぶされてしまうのだ。その彼がギャングたちに負けないため、厳しく肉体を鍛え上げていくシーンがこの映画の見所のひとつとなっている。見事ムキムキの筋肉男に変身した主人公は、「スパルカ」の試合で連戦連勝のチャンピオンになる。映画を観ている人にとってはここでついにヴァン・ダムが本領を発揮し始めるわけで、それまでさんざんフラストレーションがたまっていた観客は「待ってました!」とかけ声をかけたくなるに違いない。

 劇中は定番のエピソードがぎっしり。賄賂で左右される裁判、囚人による新人いびり、レイプ、殺人、看守の収賄、刑務所長の腐敗、謎めいた同房の受刑者、体の悪い調達屋、刑務所内での派閥争い、特別な独居房に収容されている秘密の受刑者、囚人たちの暴動、そして脱走。そういう意味で、この映画には新鮮味というものがまるでない。リンゴ・ラム監督は香港時代に『プリズン・オン・ファイアー』という刑務所ものを作っているし、案外この映画はヴァン・ダムから「ねえねえ、俺が主演で『プリズン〜』みたいな映画を撮ろうよ」ということからスタートしたんじゃないだろうか。

 映画の中で一番感心したのは劇中に登場するいろいろなエピソードではなく、じつは刑務所上空を猛スピードで飛んでいくジェット戦闘機の存在だった。空気を切り裂きながらあっという間に現れては消える戦闘機によって、主人公たちのいる刑務所の孤立感がひときわ強調されるのだ。音速で飛行する戦闘機から見下ろせば、刑務所は視界に入ってわずか数秒で視野から消える地上の「点」でしかないない。また飛行機という移動物体は、刑務所という静止点の特徴を際立たせもする。これが戦闘機ではなく鳥だったりすると、まったく別の映画になってしまっただろう。

(原題:The Savage)

10月25日公開予定 シネマメディアージュ、新宿東映パラス3
配給:アートポート、ギャガ・コミュニケーションズ
宣伝:アートポート
(2003年|1時間37分|アメリカ)
ホームページ:
http://www.hell-movie.jp/

DVD:HELL
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