蕨野行
(わらびのこう)

2003/09/22 東映第1試写室
村から原野に追われた老人たちのサバイバル生活。
村田喜代子の小説を市原悦子主演で映画化。by K. Hattori

 江戸時代のとある山村。そこでは地主・小作といった身分の上下に関わらず、60歳になった老人たちが“蕨野(ワラビ野)”と呼ばれる村はずれの原野に移り住むという掟があった。ワラビ野の老人たちは村人たちからワラビと呼ばれ、自分たちで田や畑を作ることが許されない。ワラビ野から毎日村里に降りて畑仕事などを手伝い、1日分の糧の施しを受けるのが、ワラビ野のワラビたちに許されるすべてだった。だが冷害で村の食料が乏しくなると、ワラビたちの糧は早々に断たれてしまう。庄屋の女主人として長年一家を守ってきたレンがワラビ野に来た年も、ちょうどそんな冷夏の年となった……。

 村田喜代子の同名小説を、大ベテランの恩地日出夫監督が映画化。時代設定は江戸時代なのでこれは「時代劇」ということになるのだろうが、時間的にも空間的にも周囲から隔絶された舞台設定と限られた登場人物、そして映画全編を埋める独特の台詞回しによって、この映画の世界はそれだけで独立したひとつの宇宙を作り上げている。主人公のレンを演じるのは市原悦子。嫁のヌイを演じるのは新人の清水美那。レンと共にワラビ野送りになる馬吉役には石橋蓮司。他にも中原ひとみ、李麗仙、左時枝、瀬川哲也、左右田一平などが、個性豊かにジジババ連中を演じている。

 姨捨山伝説やそれに材を取った映画『楢山節考』などと同じ「棄老」をテーマとした物語だが、ここに登場するワラビ野と村の関係がじつにユニークでしかも残酷。村は老人をワラビ野に追い立てるのだが、その老人たちを完全に遺棄してしまうわけではなく、老人たちが里に降りてきて食の施しを受けられる間は彼らを養う。ただしその老人たちは村で暮らしていたときの名を失い、「ワラビ」という匿名の存在になるのだ。ワラビたちはかつての家族と出会っても、言葉を交わすことが許されない。ワラビは村という共同体の周辺に出没する、生ける幽霊のような存在なのだ。生きている者たちの世界と死者たちの世界の間に作られたのがワラビ野であり、そこで暮らしている者たちは村人たちから半分死んだものとして扱われる。ワラビ野に送られたものがいつ死んだのか、村人たちは誰も気に留めない。

 この映画でもっとも感動的なのは、主人公レンが妹シカと別れる場面だった。シカはかつて口減らしのため婚家を追い出され、実家に帰ることもできず、たったひとりで獣のように森の中で生き抜いてきた。その彼女は姉レンに向かって、ワラビ野で座して死を待つのではなく、自分と一緒に森で生きようと誘う。だがレンはその申し出をきっぱり断る。ワラビ野で生きる意味。ワラビ野で死ぬことの意義。それをすべて悟り受け入れたレンの強い決意。人がいかに生き、いかに死ぬかというこの映画のテーマは、この姉妹の別れのシーンに凝縮しているように思える。

 山形県で丸1年をかけてロケした作品。四季折々の風景が美しい。

10月4日公開予定 新宿東映パラス2
配給:東映
問合せ:東映映画宣伝部、(株)タイムズイン
(2003年|2時間4分|日本)
ホームページ:
http://www.catvy.ne.jp/~warabi/

DVD:蕨野行
原作:蕨野行(村田喜代子)
関連DVD:恩地日出夫監督
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