ボブ・クレイン
快楽を知ったTVスター

2003/09/08 ソニーピクチャーズ試写室
60年代の人気テレビ俳優はなぜホテルの部屋で殺されたのか。
グレッグ・キニアが実在の人物を演じた実録ドラマ。by K. Hattori

 映画の主人公ボブ・クレインは実在の人物。60年代にラジオDJから連続ドラマの主演に抜擢されてスターになったものの、その後はこれといった役に出会えず消えていった俳優だ。彼はどさ回りの舞台巡業を続け、1978年に滞在先のホテルで何者かに殺された。彼はなぜ殺されなければならなかったのか? この映画は事件を取材したノンフィクション「The Murder of Bob Crane」を、ポール・シュレイダー監督が映画化した実録ドラマだ。

 ロサンゼルスでラジオ局のDJをしていたボブ・クレインは、妻と3人の子供の家庭を守る模範的な父親だった。だが1965年から放送が始まった人気ドラマ「0012捕虜収容所(Hogan's Heroes)」の撮影中、ジョン・カーペンターという男に出会ったことでクレインの生活は大きく変わって行く。クレインはカーペンターに誘われてストリップバーに出入りするようになり、やがては毎晩のように女をナンパしてはセックス三昧の日々。もともと写真を撮るのが趣味だったクレインは、ビデオメーカーの営業マンだったカーペンターの機材を使って、自分たちだけのプライベートなポルノムービーを作るようになる。

 シュレイダー監督はこの映画で『1965年から78年というきわどい時代のアメリカ人男性の性的アイデンティティの概念の変化を記録したかった』と述べているが、この映画は広く「時代の変化」と「人間」の関係について描いているとも言えるだろう。ここで描かれているのは、映画からテレビ、フィルムからビデオへのメディア技術の変化であり、クレインを育てた40年代・50年代の価値観が崩壊し、アメリカ全体を新しい価値基準が塗り替えていく歴史でもある。反戦運動、ヒッピームーブメント、カウンターカルチャー、ウォーターゲート事件、そしてセックス革命。簡単に言ってしまえば、アメリカは「何でもあり」の時代になったのだ。その真っ只中で、ボブ・クレインは自分自身を見失っていく。

 サン=テグジュペリは著書「人間の土地」の中で、『愛とはお互いを見つめあうことではなく、ともに同じ方向を見つめることである』と言っている。だがともに見つめる方向にあるのが、美しいものや良いものであるとは限らない。ボブ・クレインとジョン・カーペンターは、女遊びと私家版ポルノ映画作りという共通の趣味にはまり込む。これもまた、間違いなくひとつの愛の物語であろう。この映画は「女遊び」を媒介に結びついた同性愛者のドラマでもあるのだ。

 映画を最後まで観ると、これがワイルダーの『サンセット大通り』を下敷きにしていることがわかる。物語のナレーターはどちらも死体。サイレント映画の女優が破滅する物語は、テレビのスター俳優が破滅する物語になっているというわけだ。時代は変われど、これはハリウッドという特殊な世界が生み出した悲劇だろう。

(原題:Auto Focus)

11月1日公開予定 シアター・イメージフォーラム
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
(2002年|1時間45分|アメリカ)
ホームページ:
http://www.spe.co.jp/bobcrane/

DVD:ボブ・クレイン
サントラCD:Auto Focus
原作洋書:The Murder of Bob Crane
輸入ビデオ:Auto Focus
関連DVD:ポール・シュレイダー監督
関連DVD:グレッグ・キニア
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関連DVD:サンセット大通り

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