ゲロッパ!

2003/09/05 銀座シネ・ラ・セット
2日後に刑務所息を控えたやくざの親分の物語。
井筒和幸監督の新作だが脚本がひどいと思う。by K. Hattori

 毒舌映画評で有名な井筒和幸監督の最新作。最近は監督本人がテレビタレントとして有名になっているせいか、銀座の小さな映画館で観た平日最終回はかなりの席が埋まっていた。興行的にはまずまずの成果が上がったということだろうが、観客の反応はよくないように思った。コメディ映画は劇中のギャグシーンに合わせて客席がドッと笑うのが醍醐味だが、残念ながらこの映画では「ハハハ」レベルの笑いがせいぜい1回、「クスクス」笑いが2回ぐらいしかなくて、客席全体が震えるような爆笑はついに1度も味わえなかったのだ。これはストーリーの上でギャグが上滑りして、観客が素直に笑える気分になれないからではないだろうか。

 2日後の刑務所入りを控えたやくざの親分が、25年間音信普通だった一人娘に再会するというお話。ところがそこにどう勘違いしたのかジェームス・ブラウンの誘拐事件がからみ、政権を揺るがしかねない極秘情報のために内閣調査室も動き始める。こうした複数の話がうまくつながらないまま、映画の中でモタモタと併走していくのだ。脚本の発想がどのあたりにあったのかは不明だが、おそらく「これだけじゃ話が持たない」ということでアレコレとエピソードを付け加えるうち、わけのわからない脚本になってしまったのだろう。ラグーナ蒲郡を舞台にしなければならないという制約もあったのだろうが、そのせいで人の出入りが不自然になり、物語全体がいびつに歪んでしまっていると思う。

 これで観客を笑わせようとすれば、ストーリーなど横に放り出してドタバタに徹するしかない。でもこの映画のギャグはある状況設定の中で人が見せる必死な様子が、ついつい他人の目には滑稽に見えてしまうという種類のもの。そこに準備されている「状況設定」に観客が納得できないと、そこでどんなに滑稽なシーンが演じられても笑えないのは当然だ。ギャグシーンは現場の演出や出演者の個性に左右されてしまうことも多いと思うが、状況設定を作っておくのは脚本の仕事。この映画はその土台部分がユルユルだから、その上にどんなに美味しい材料を並べてもすべてがずっこけてしまう。ギャグがきちんと決まらないのだ。

 主人公がなぜ刑務所に入らなければならないのかよくわからないまま映画ずっと進行して、最後は超法規的処置で無罪放免というのも解せないが、自由の身になったらなったで、最後は念願だったジェームス・ブラウンの名古屋公演に行けばいいじゃん! もしくはクライマックスの物真似ショーで西田敏行が歌い、物真似タレントのJBもどきが出てきて盛り上がってきたところで、内閣調査室の手配でJB本人がも加わって「ゲロッパ!」を歌わせるとか……。最初から最後までユルユルのガタガタで進行した映画を最後にビシッと締めるには、理屈を超えてそのぐらいの無茶をやらないとどうしようもないような気がするぞ。

8月16日公開 銀座シネ・ラ・セット他・全国洋画系
配給:シネカノン
(2003年|1時間52分|日本)
ホームページ:
http://getup.so-net.ne.jp/

DVD:ゲロッパ!
サントラCD:ゲロッパ!
主題歌CD:GET UP!(SOULHEAD)
関連書籍:小説ゲロッパ!(井筒和幸)
関連書籍:こちトラ自腹じゃ(井筒和幸)
関連DVD:井筒和幸監督
関連DVD:西田敏行
関連DVD:岸部一徳
関連DVD:常盤貴子
関連DVD:ジェームス・ブラウン
関連CD:セックスマシーン(ジェームス・ブラウン)

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