東京ゴッドファーザーズ

2003/08/27 ソニー・ピクチャーズ試写室
3人のホームレスがクリスマスの晩に拾った赤ん坊から始まる大冒険。
『パーフェクトブルー』『千年女優』の今敏監督の最新作。by K. Hattori

 『パーフェクトブルー』『千年女優』の今敏監督最新作は、現代の東京を舞台にした極上のクリスマス・ストーリーだ。物語の主人公は新宿の公演をねぐらにする3人のホームレス。この道10数年のひげ男ギンちゃんと、オカマのハナちゃん、そして家出少女のミユキは、クリスマスの夜にゴミ捨て場でひとりの赤ん坊を拾う。早く警察に届けようというギンちゃんに、「これは神さまからの贈りものだわ!」と大はしゃぎのハナちゃん。行きがかり上その晩は赤ん坊の面倒を見て、翌日から3人で赤ん坊の親探しをすることになったのだが、大雪で電車は止まる、やくざの結婚式に紛れ込んだヒットマンにミユキと赤ん坊が誘拐される、中学生のホームレス狩りにあうなど、散々な目に……。なおタイトルの『ゴッドファーザーズ』はコッポラのマフィア映画ではなく、ジョン・フォードの『三人の名付け親』(原題:3 Godfathers)からの引用だそうだ。

 緻密な描写で我々のよく見知っている日常を描きつつ、実写では絶対に不可能なファンタジーを作り出すのが今敏監督の特徴。今回の映画も序盤から中盤までは「こんなの実写でやったほうが早いよ」と思えるシーンが続くのだが、終盤になって物語がヒートアップしてくると、アニメならではの描写が生きてくる仕掛けになっている。ハリウッド映画ならこれをそのまま実写映画化できそうだけれど、日本映画ではかなりスケールダウンしないと映像化できないと思う。また薄汚いホームレスと無垢な赤ん坊の対比も、実写にすると生々しすぎて、ファンタジーより犯罪の匂いがしてしまいそうだ。

 クリスマス・ストーリーというのは欧米の映画によくあるジャンルで、『素晴らしき哉、人生!』などはその代表格。クリスマスの日には、仲違いしていた人々が和解し、別れていた人々が出会い、罪人が改心し、絶望していた人が希望を見出す。この映画はそんなクリスマス・ストーリーを、日本にうまく移植していると思う。それぞれ過去にいわく因縁のある3人のホームレスたちは、拾った赤ん坊を通じて自分たちの過去と向き合うことになる。たぶんこの映画はそのままアメリカ人にも通じる物語だろう。英語吹替えのビデオやDVDはアメリカでもちゃんと売れると思うし、ひょっとするとアメリカで実写映画としてリメイクされるかもしれない。そのくらい、物語の完成度が高いと思う。

 主人公3人の個性がうまく描かれているし、それぞれの過去の秘密を小出しに観客にばらしていく構成も上手い。江守徹、梅垣義明、岡本綾の声もぴったりはまっていると思う。劇中にハナちゃんが詠む俳句が時折挿入されるという構成も、そこでストーリーが一度足を止めるのがかえって人を食っていて面白い。『パーフェクトブルー』や『千年女優』についてはいろいろ注文も付けたくなったが、今回の映画は文句の付け所がない完璧な仕上がりではないだろうか。

11月公開予定 シネセゾン渋谷、テアトル池袋、テアトル梅田
配給・宣伝:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
宣伝協力:植田繁(LIBERO)、B-Wing
(2003年|1時間30分|日本)
ホームページ:
http://www.spe.co.jp/movie/worldcinema/tgf/

DVD:東京ゴッドファーザーズ
関連DVD:今敏監督
関連書籍:泣いた赤おに
関連書籍:KON’S TONE―「千年女優」への道(今敏)

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