シティ・オブ・ゴッド

2003/08/23 ヴァージンシネマズ六本木ヒルズ(3)
リオ・デ・ジャネイロのスラムで繰り広げられたギャングの抗争史。
映像と音楽の効果で血なまぐさい話もノリがよくなる。by K. Hattori

 ブラジルの大都市リオ・デ・ジャネイロは風光明媚な国際的観光都市で、毎年春に行われるカーニバルで世界的にも有名だ。だが市内各地の丘の斜面には、ファベーラと呼ばれるスラムがへばりつくように存在している。大都市周辺のスラムは地方から都市に流れ込む人々を食い止める人口調節弁の役目を果たしているのだが、電気や上下水道などの基盤整備は人口増に追いつかず、衛生状態も劣悪で、貧しさから犯罪に走る人々を生み出す温床にもなっている。この映画の舞台も、そんなファベーラのひとつだ。

 リオ市街に近い「神の町」と呼ばれるスラム。この映画は語り手で狂言回しとなるブスカペという少年の視点から、スラムを支配するギャング団の3世代に渡る歴史を描いていく。最初は60年代に町を闊歩していた、カベレイラ、アリカーチ、マヘクという3人組のチンピラたちの物語だ。だがこのエピソードは映画の序章に過ぎない。物語の中心がこの3人組の子分だったリトル・ダイスと親友ベネに移ったとき、映画は本格的に動き始める。リトル・ダイスは兄貴分たち3人が消えるとみるみるうちに悪党として頭角を現し、名前もリトル・ゼに改名。やがて町の麻薬流通網を強引に乗っ取って、あっという間に町の半分を支配してしまう。リトル・ゼはもともと町の麻薬組織を牛耳っていたセヌーラと何度か対立するが、両者の対立はやがて全面抗争へと発展。町は銃弾が飛び交う戦場へと変貌してしまう。

 個性的な悪党たちが互いの欲望をむき出しにしてぶつかり合う話はじつに面白いのだが、なんとこれは実話がベースになっているのだという。映画のエンドタイトルでは、劇中に登場した男たちのモデルとなった連中の顔写真や生前のニュース映像などが紹介されている。映画がほとんど本当の話で、登場人物の大半が死んでしまうか逮捕されてしまうというあたりは、まるでブラジル版『仁義なき戦い』だ。じつは物語の狂言回しブスカペが、原作者パウロ・リンスの少年時代にあたるのだそうだ。彼はこの映画の原作を書いたあと、映画『オルフェ』の脚本も手がけている。そういえば『オルフェ』も、ファベーラを舞台にしたギャングの物語だった。つまりはそれが、リンスにとってのファベーラの現実なのだろう。

 映画に登場する俳優たちはほとんどが素人だったらしいが、すっかり役になりきった堂々とした演技には舌を巻く。子供たちが大型銃を振り回して殺しあうという殺伐とした話なのだが、随所に見られるユーモアに思わずクスクス笑ってしまうところも多い。ファッションや音楽などの風俗描写も、単に時代背景を説明するだけでない、効果的な感情表現のための小道具として使われている。BGMとしてサンバやボサノバなどのブラジル音楽が大量に使われ、映画のスピード感とノリを高めていると思う。ほとんどは既製曲だと思うが、センスのいい選曲には惚れ惚れとする。

(原題:CIDADE DE DEUS)

6月28日公開 ヴァージンシネマズ六本木ヒルズ
配給:アスミック・エース
(2002年|2時間10分|ブラジル)
ホームページ:
http://www.cityofgod.jp/

DVD:シティ・オブ・ゴッド
サントラCD:シティ・オブ・ゴッド |City of God
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