秋聲旅日記

2003/08/22 映画美学校第2試写室
金沢出身の小説家徳田秋聲の短編小説を青山真治監督が映画化。
映画に散りばめられた古風な日本語の美しさ。by K. Hattori

 石川県金沢市出身の小説家・徳田秋聲(徳田秋声/1871-1943)の短編小説を、『EUREKA』『月の砂漠』の青山真治が脚色・監督した43分のデジタルビデオ映画。原作となったのは「挿話」「籠の小鳥」「町の踊り場」「旅日記」の4編で、それぞれ大正から昭和初期に書かれているものだという。映画はそれを台詞まで忠実に原作から引用して映像化しているのだが、わざわざ撮影のためにセットを作ったり、車両を手配したりはしていない。ロケ地はすべて現代の金沢。しかしお話は現代に翻案してあるわけではなく、言葉づかいやお金の単位まですべて原作が書かれた当時のままになっているようだ。この映画の中では現代の金沢と、小説が書かれた大正・昭和の金沢が混在している。

 東京から故郷金沢に戻った主人公の徳田秋聲が、お絹という女のいる馴染みの旅館で二十日ほど過ごして東京に戻っていくという、ただそれだけのお話だ。ここで描かれるのは、時代に合わせて変わって行く金沢の町と人々の姿。その中で頑なに変化を拒み、昔のままを守り続ける人々の姿だ。変わるものと変わらぬものの対比。押し寄せてくる現代と、いつまでも変わらぬ町や人々の暮らしぶり。こうしたテーマを描くのに、現代の金沢でそのままロケするというこの映画のスタイルはぴったりだったと思う。

 この映画を小説が描いた「大正から昭和初期」の風俗で描いてしまっては、かえってテーマがぼけてしまっただろう。大正や昭和初期は現代に生きる我々にとって既に遠い昔のことであり、そこで「時代の変化が云々」と言っていても、それは過ぎ去った大昔の出来事に過ぎないからだ。この映画はそれを十分に承知して、物語の舞台を現代に持ってくる。主人公の徳田秋聲が登場するのは飛行場なのだ。車はレトロなスタイリングながら新しいものだし、街並みも古い面影を残しながら石畳はタイルのようだし、主人公たちが聴きに行くジャズも古いスタイルではなく現代のものだ(ピアノ演奏と歌はケイコ・リー)。料亭にガラス張りの廊下があるのも印象的。この映画には古い金沢と、新しい金沢が同居している。それは細部こそ違え、原作者の徳田秋聲がかつて見た町の変化と同質のものであるに違いない。

 本作の魅力のひとつは、劇中で登場人物たちが話す古風な日本語だろう。主演の嶋田久作やとよた真帆が、大正・昭和期の小説に書かれた美しい日本語を流暢にしゃべる様子は耳に心地よい。その話しぶりは古風ではあるけれど、決して不自然ではないし現代にも通じる生き生きとした言葉だと思う。この言葉の力によって、秋聲の世界が現代の風景と見事に結びつくのだ。とりたてて明確なストーリーがあるわけでもないこの映画の中では、こうした言葉の数々や、登場人物たちの立ち居振る舞いや仕草の美しさばかりが目に付くのだ。おそらく監督の狙いもその辺りにあったのではあるまいか。

10月上旬公開予定 ユーロスペース
8/23〜29シネモンド(金沢)にて先行プレミア上映
9月6日よりシネモンドにて先行公開
配給・宣伝:ユーロスペース
(2002年|43分|日本)
ホームページ:
http://www.eurospace.co.jp/

DVD:秋聲旅日記
原作:石川近代文学全集2巻・徳田秋声
関連DVD:青山真治監督
関連DVD:嶋田久作
関連DVD:とよた真帆
関連DVD:西條三恵
関連CD:ケイコ・リー

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