2003/08/22 メディアボックス試写室
金城一紀の小説を映画化した男同士のロードムービー。
最後はほろりと泣かせ、温かい気持ちが広がる。by K. Hattori

 映画『GO』の原作者でもある金城一紀の連作小説「対話篇」の中の一遍「花」を、NHKのディレクターとして数多くのテレビドラマを演出してきた西谷真一が映画化した作品。銀行の営業マンだった野崎陽一郎はある日突然ひどいめまいを感じ、病院の検査で脳内に動脈瘤があると診断される。手術しなければ命に関わるが、手術をしても重大な記憶障害が残る可能性があるという。自分がこれまで生きてきた記憶を失うなど死に等しい。医者の診断にショックを受けた野崎は、会社を辞め、恋人との連絡も断ってアパートの部屋に引きこもってしまう。それから1週間。彼はたまたま近所の男から運転のアルバイトを引き受ける。最近免罪事件の裁判に勝訴したばかりの鳥越という弁護士を、東京から鹿児島の指宿まで送り届ける仕事だ。飛行機を使えばあっという間の距離を、鳥越はあえて自動車で、しかも高速を使わずに国道だけを使って1週間かけて旅したいと言うのだが……。

 主演は『天使の牙』が公開中の大沢たかおと、『座頭市』にも出演している柄本明。まったく面識のなかった青年と初老の男が出会って一緒に旅をする典型的なロードムービーだが、ここでテーマになっているのは「記憶」だ。脳の手術で記憶を失うことを恐れる野崎と、かつて愛した妻の面影を見失い、記憶を取り戻すために新婚旅行の旅を再現しようとする鳥越の旅。「記憶を失うことは死ぬことと同じ」と考えていた野崎は、鳥越との旅を通じて生きる勇気を取り戻していく。

 男ふたりの旅に平行して、40年前に同じコースを鳥越と妻が旅行した姿が挿入される。若い日の鳥越夫妻を演じるのは、牧瀬里穂と加瀬亮。このカップルの旅は、どう見ても牧瀬里穂演じる恵子がリードしているように見えるのがミソだ。じつは40年後の旅も、恵子側からの呼びかけで始まったようなものなのだ。鳥越が語る旅の思い出話や離婚に至るエピソードが現代の旅の様子と絡み合う。鳥越は人生で最も輝いていた時代の思い出を伴走者に、長い長い道のりを旅している。それは鳥越にとって、恵子と別れて以来ずっと続けてきた贖罪の旅の締めくくりでもあるかのようだ。

 主演ふたり以外の出演者もかなり豪華。オープニングで看護婦役の藤村志保がわずかな表情の変化だけで見せる芝居のすごさ。樋口可南子演じる食堂のおかみさんがかもしだすユーモアと温かさ。他にも南果歩、椎名桔平、仲村トオル、遠藤憲一など、主演クラスの俳優がずらずらと顔を出している。ギター主体の音楽もすごくいい。感情を盛り上げる場面で音楽がでしゃばることもなく、しっかりと物語に寄り添ってサポートしていく。

 旅の目的地で見つけた花を見た鳥越が、涙ながらに絶叫するシーンは感動的。地味で抑え気味の演技が多い柄本明が、ここまで感情むき出しの芝居を見せることは珍しいのではないだろうか。その意外性が大きな感動を生み出している。

秋公開予定 テアトル新宿
配給:ザナドゥー
(2003年|1時間46分|日本)
ホームページ:
http://www.artistfilm.co.jp/

DVD:花
原作:対話篇(金城一紀)「花」収録
挿入歌CD:かれん(米良良一)「胸の振子」収録
関連CD:村治佳織(音楽)
関連DVD:西谷真一監督
関連DVD:大沢たかお
関連DVD:柄本明
関連DVD:牧瀬里穂
関連DVD:西田尚美
関連DVD:加瀬亮

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