怒りの日

2003/08/19 アミューズピクチャーズ試写室
捕えられた魔女から「お前の母も魔女だった」と言われた牧師の妻。
リアルに再現された魔女裁判の様子がグロテスク。by K. Hattori

 1943年に製作されたカール・ドライヤー監督の心理ドラマ。ノルウェーの作家ハンス・ヴィアス=イェンセンの原作戯曲は、プレス資料によると、1575年に死んだ牧師の妻が15年後に逮捕されて火刑になった実在の魔女裁判を下敷きにしているという。しかしロッセル・ホープ・ロビンズの「悪魔学大全」には、この事件についての記載がない。ノルウェーで最古の魔女裁判記録は、1592年にベルゲンで死刑になったオルフ・グルダルのもの。ただしその2年後には同じベルゲンでアンネ・クヌートスダッテルという女性が火刑になっているので、こちらが戯曲のモデルかもしれない。

 17世紀のノルウェーにある小さな村。村の牧師アプサロン・ペーダースシュンは妻を亡くした後、娘ほども年の離れた若い娘アンネ・ペーダースドッテルを妻に迎えている。折りしも村ではマーテという老婆が魔女として捕えられるが、彼女は取り調べにあたったアプサロンに命乞いをする。「アンネの母親も魔女だったけど、あんたは手心を加えて助けたじゃないか」と言うのだ。結局マーテは火刑になるのだが、逮捕直前のマーテから自分の母が魔女だったと聞かされたアンネは、自分の中にも母譲りの力が宿っていることを確信する。ちょうど同じ頃、アプサロンのもとには学校を終えたばかりの一人息子マーティンが戻っている。マーティンはアンネより2つ年上だ。アンネは夫や義母の目を盗んでマーティンと深い関係になるのだが……。

 現代人には「魔女狩り=冤罪」というイメージがあるのだが、当時は悪魔と契約した魔女の実在が当たり前のように信じられていて、処刑された人の中には実際に自分を魔女だと考えている人たちも多かった。この映画の中ではマーテが自分自身を魔女だと考えているようだし、アンネの母は自他共に認める魔女で、アンネ本人も自分の中にある超自然の力に確信を持っている。現代の我々の目から見ればこれは「迷信」に過ぎないのだが、当時はそれが信じられていたという前提でこの映画を観ないと、物語の本質的なところが見えなくなってしまうと思う。この映画の中には、間違いなく「魔術」が存在しているのだ。

 アンネは禁欲的で抑圧された家庭から逃避するように、義理の息子であるマーティンとの情事にのめりこんで行く。発覚すればスキャンダルではすまされない命がけの恋。その時、アンネの心には悪魔が宿るのだ。家の中で自分を押し殺す貞淑で控えめな女性だったアンネが、恋心に身を震わせて目をギラギラと光らせる。最初は人目を忍んでいた逢瀬だったが、恋に我を忘れた女の行動はどんどん大胆になっていく。誰かを愛するという行為が、人の心に巣食う悪魔的なものを芽生えさせるのだ。

 魔女裁判の様子がリアルに再現されているのがひとつの見どころ。梯子に固く縛りつけた受刑者を、燃えさかるたきぎの山に突き倒す火刑の描写はショッキングだ。

(原題:Vredens Dag)

《聖なる映画作家、カール・ドライヤー》
10月11日より 有楽町朝日ホール
10月28日より 東京国立近代美術館フィルムセンター
11月15日より ユーロスペース
主催:国際文化交流推進協会(エース・ジャパン)、朝日新聞社
宣伝:ユーロスペース
(1943年|1時間33分|デンマーク)
ホームページ:
http://www.eurospace.co.jp/

DVD:怒りの日
関連DVD:ドライヤー
参考資料:悪魔学大全(ロッセル・ホープ ロビンズ)

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