女はみんな生きている

2003/08/15 メディアボックス試写室
血まみれの娼婦と平凡な主婦の出会いが生み出す大冒険。
サスペンス映画だが爆笑ポイント多数。最高です。by K. Hattori

 主婦エレーヌの生活は平凡すぎるくらいに平凡だった。夫ポールとの生活には何の不自由もないのだが、夫婦の間にはもう何の感情の交流もない。夫は黙って家族を養い、妻は家族のために黙々と家事をする。明確に決められた役割分担の中で、何の変化もない平板な日常の時間が流れていく。そんなある晩、友人宅に向かうエレーヌとポールの自動車の前に、数人のチンピラに追われてケガをした若い女飛び出してきて助けを求める。だが厄介ごとに関わりたくないポールは、女の目の前で車のドアをロックし、女がチンピラたちに暴力を振るわれ半殺しになる様子をただ黙って見ているだけだった。これに心を痛めたエレーヌは翌日病院を訪れ、瀕死の状態で運び込まれた昨晩の女性ノエミを看病し始める。ところがその病院に、あの晩のチンピラたちが再びやってきた……。

 平凡すぎる主婦の生活が、ある日突然スリルに満ちた冒険の日々に変わるというサスペンス・コメディ映画。監督・脚本は『赤ちゃんに乾杯!』のコリーヌ・セロー。主人公の主婦エレーヌを演じるのは『奇人たちの晩餐会』のカトリーヌ・フロ。美しいアルジェリア人娼婦ノエミを演じたラシダ・ブラクニは、セザール賞とリュミエール賞の最優秀有望若手女優賞を受賞している注目株。エレーヌの夫ポールを演じるのは『パパラッチ』のヴァンサン・ランドン。手に汗握るサスペンス映画でありながら、ヒロインを演じたカトリーヌ・フロの持つほのぼのムードが映画全体にユーモアを振りまいている。爆笑ポイントが幾つかあるのだが、その多くはフロが作り出しているものだと思う。

 この映画のテーマは、「家庭」や「家族」の存在が時として女性を縛る牢獄になるということだ。イスラム系家族の中で育ったノエミと、会社経営者を夫に持つフランス人女性エレーヌの境遇は、外見的に見れば天国と地獄ほどの違いがある。だが彼女たちが家族に縛られていることや、女性であるという理由だけで家事全般を押し付けられているというのは共通している。家庭の中でああしろこうしろと命令するのは男たち。夫だけではない。親のすねをかじっている息子までが、母親にあれこれ命令したり、不平不満や悪態をついたりして平気なのだ。女はそれに黙って従うしかないのか。女がいなければ何もできない無能な男たちは、自分たちの無能さに気づくことさえできないバカばかり。

 エレーヌの家族に対する反逆も、ノエミの売春組織に対する反逆も、「女を苦しめる男たちに対する復讐」という点で一致する。ふたりは社会的に弱い立場に置かれている女であるがゆえに手をつなぎ、共に戦うことができるのだ。おそらく世の中のほとんどの女性たちは、この映画のヒロインたちを応援し、最後には喝采を送ることだろう。男性の中には、多少複雑な気分になる人がいるかもしれないけれど……。(僕も多少複雑な気持ちになる場面がありましたけどね。)

(原題:Chaos)

秋公開予定 シネスイッチ銀座、関内エムジーエー
配給:アスミック・エース
(2001年|1時間52分|フランス)
ホームページ:
http://onna-minna.jp/

DVD:女はみんな生きている
関連DVD:コリーヌ・セロー監督
関連DVD:カトリーヌ・フロ
関連DVD:ヴァンサン・ランドン

ホームページ

ホームページへ