ネレ&キャプテン
─壁をこえて

2003/08/14 映画美学校第2試写室
西ベルリンの女の子が東ベルリンのパンク少年と恋をした。
ベルリンの壁に阻まれた少年少女の恋の行方は?by K. Hattori

 1989年11月にベルリンの壁が崩れたとき、そのテレビ中継をニューヨークの運送会社倉庫で見ている西ドイツ出身の若い女性がいた。彼女は7年前、生まれて初めて東ベルリンを訪ねたときのことを思い出す。そこで出会った、命がけの恋のことを……。

 1982年、祖母の葬儀のため初めて東ベルリンを訪ねたネレは、ラジカセから流れるパンクミュージックにあわせて踊る若者たちの姿を見つける。聴いている音楽もファッションも、西側とまったく変わらない若者たちの姿。「東側にもパンクがあるなんて!」と驚くネレは、パンクファッションの若者のひとりキャプテンと親しくなり、翌週行われる彼らのコンサートに行く約束をする。こうしてネレは頻繁に東西ベルリンを往来するようになり、キャプテンとの関係も親密さを増していく。だが自分たちの存在を西側に伝えたいというキャプテンや仲間たちの無邪気な願いにネレが協力したことから、ふたりは東ベルリンの管理当局からマークされる存在になってしまった。

 ドイツの女性映画監督コニー・ヴァルターの長編初監督作品で、脚本はかつて『クリスチーネ・F』に主演したナーチャ・ブルンクホルスト。監督・脚本が女性であることもあり、この映画ではヒロインの気持ちと行動が説得力を持って描かれていると思う。ネレが危険をものともせずにバンドの映像を西側に届けるのは、彼らの音楽に共感したからではないし、東側の体制に異論を唱えたかったからでもない。ネレはただ単純に、好きな人のために何かをしてあげたかっただけなのだ。音楽なんてまるで二の次。キャプテンたちのバンドに惹かれたのは、「東ドイツでパンク?」という意外性が彼女の好奇心を突き動かしたからだろう。ネレがパンクではないことは、彼女のファッションを見てもわかるようになっている。じゃあなぜネレはキャプテンに惹かれたのか? それは恋の不可思議さであって理屈ではない。その不可思議さは、映画の中で十分に表現されていると思う。

 検問所を通ってネレが東ドイツを訪問する様子は、第1回目がおっかなびっくり、2回目以降はちょっとした好奇心と冒険として描かれる。通行料さえ払えば自由に東西の壁を行き来できるネレと、壁の向こうに閉じ込められて外に出ることが許されないキャプテン。やがて当局は大規模なパンクミュージック取締りを行い、キャプテンと仲間たちも次々に逮捕される。

 この映画は実話をもとにしているそうで、劇中に登場するエピソードの多くは実際にあった出来事なのだという。ネレとキャプテンにはそれぞれモデルになった人物がいるのだとか。ただしこの映画はそうした事実をノスタルジーとして描くのではなく、若い男女の恋心を中心にすえて、どの時代にも通じる普遍的なラブストーリーにしている。ラスト10数分のエピローグは長いが、この映画にはこんなハッピーエンドが似合うと思う。

(原題:Wie Feuer und Flamme)

10月4日公開予定 ポレポレ東中野
配給:パンドラ 宣伝:スキップ
(2001年|1時間42分|ドイツ)
ホームページ:
http://www.pan-dora.co.jp/nere/

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