八月のかりゆし

2003/07/15 アミューズ試写室
沖縄の不思議ゾーンに迷い込んだ少年少女の物語。
話はよくわからないけど、風景はきれい。by K. Hattori

 『インフィニティ∞波の上の甲虫』や『Rei-ya』の高橋巖監督が、沖縄を舞台にして作ったファンタジックなラブストーリー。主演は最近すっかり売れっ子になっている松田龍平と、アイドルタレントの末永遥。ミュージシャンの斉藤和義が映画のサントラを担当すると共に、劇中にも不思議な役どころで出演している。ロックバンド「Hysteric Blue」のボーカリストTamaも重要な役で出演。脚本は『インフィニティ∞波の上の甲虫』でも高橋監督と組んだ高木弓芽。南国の島で男と女が虚実の皮膜を超越した旅をするというお話は、監督・脚本コンビの前作との共通点かもしれない。

 この映画は前作以上に、神秘的なテーマが先に立った映画になっていると思う。物語の中には一応、泥臭い親子の関係や出生の秘密といった要素も組み込まれているのだが、それは最後までドラマの中心にならない。映画の冒頭とラストからは、そうした泥臭さを物語の中心に置こうとする意思も感じられるのだが、主人公たちの旅そのものがこうしたテーマと無関係なのだから、これは単なるつけたりの小芝居に過ぎないのだ。

 母親を亡くして天涯孤独となった17歳の少年テルが、親戚を頼って沖縄にやって来る。そこで出会ったのは、ユタ(霊能者)の家系に生まれた霊感の強い少女マレニだ。マレニには普通の人には見えない精霊や幽霊が見える。母親がユタだったテル本人はまったく何も自覚していないのだが、やはり彼も霊界の何かと交感できる能力を持っているらしい。ある日突如としてトランス状態になったマレニと一緒に、テルは旅に出ることになる。途中でアキという少女も合流するのだが……。

 物語はかなり蛇行している。目的地が見えないまま、ヨタヨタと千鳥足で前へ前へと進んでいく様子はかなり頼りなく危なっかしい。それが何とかまとまりのある物語になっているのは、松田龍平と末永遥の初々しい存在感によるものだろう。現代に生きる沖縄の風俗や風習が描きたいのか、父や母や子供たちの因縁話を描きたいのか、沖縄の美しい風景を描きたいのか、過去の歴史の悲劇を描きたいのか、お話事体は何が言いたいのかさっぱりわからない。だが四方八方にバラバラに流れていくエピソードが、松田龍平と末永遥の存在でかろうじてひとつの場所につなぎ止められている。

 『インフィニティ∞波の上の甲虫』に登場した南の島と同様に、この映画に登場する沖縄は映画の作り手たちが勝手に思い描くさまざまな妄想を受け止める舞台装置でしかない。沖縄のスピリチュアルな伝統文化を言い訳にすれば、そこではどんな物語でもアリになってしまう。ヤクザ映画における妄想の舞台が常に「大阪」であるように、沖縄も特徴的な風景と方言によって、いかにデタラメな物語をも許容する映画的祝祭空間になろうとしているようだ。(沖縄が舞台の映画がすべてデタラメとは言わないが……。)

8月2日公開予定 テアトル池袋
配給:ギャガ・コミュニケーションズ 宣伝:ビー・ウィング
(2003年|1時間27分|日本)
ホームページ:
http://www.takahashi8.jp/

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イメージソング「愛すべき日々」収録CD:omni (GOMES THE HITMAN)
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