ヒバクシャ
―世界の終わりに―

2003/06/25 シネカノン試写室
世界各地で生まれ続ける新たなヒバクシャを追いかけたドキュメント。
企画の意図はわかるが切り口にもう一工夫必要かも。by K. Hattori

 湾岸戦争で使用された劣化ウラン弾の影響で、イラクでは子供たちのガンや白血病が増えているのだという。戦車攻撃に利用された劣化ウラン弾は、細かな飛沫やガスとなって空気中に広がり、自然環境の中でほとんど永久的(劣化ウランの半減期は45億年!)に人体に悪影響を与える放射線を出し続ける。湾岸戦争で使用された劣化ウラン弾は95万発といわれ、それは劣化ウランにして300トン以上。今年起きたイラク戦争でも、多くの劣化ウラン弾が戦闘に使用されている。イラクの大地に飛び散った劣化ウランは、今後も新たな被曝者を生み続ける。一番被害を受けるのは子供たちだ。
 
 この映画は白血病で死んだひとりのイラク人少女を振り出しに、世界各地で行き続ける大勢の被曝者たちを追うドキュメンタリーだ。「被曝者」を「ヒバクシャ」とカタカナ書きにするところに、この映画の「今や核の被害者は広島・長崎の被曝者だけではない。被曝者は世界中のあらゆる場所にいるのだ!」というメッセージが込められている。ここで取り上げられているのは、核爆発や核施設の事故などで一度に大量の放射線を浴びることではない。一度には死んでしまわない程度の低線量の放射線を浴びたことで、さまざまな体調不良を訴える人々の姿だ。原爆投下後に爆心地に入って被曝した人々、劣化ウランによって苦しむイラクの子供たち、核施設の周囲で大勢の人が亡くなったアメリカのケース。
 
 目に見えにくい「低線量被曝」の実態に迫ろうとする意欲的な作品だが、作り手の意識ばかりが空回りした中途半端な映画になっていると思う。空回りの原因は、低線量被曝が目に見えないからだ。被曝した人が、被曝当日や翌日に死ぬなら話は単純。原因と結果はワンセットでそこに存在し、被曝と被害実態の因果関係が目に見える。ところが低線量被曝は、被害を受けた人々の体調変化が数年から数十年後になって、ようやく現れてくることなのだ。世の中には被曝しなくてもガンや白血病になる人たちがいる。だとしたら、被曝から数十年後にガンや白血病になった人の病因が、放射線だとどうして断言できるのだろうか? 統計的に見れば、被爆者のほうがガンになりやすいと数字で証明することはできる。でもそれは統計的な数字であって、今目の前にいるガン患者や白血病患者が、放射線被曝によって病気になったことを証明することはできない。
 
 放射性物質による環境汚染は全世界的な規模で起きていることで、現代人はそこから逃れることができないらしい。だが僕は映画を観ていて、「だからどうした!」と思ってしまった。環境汚染は何も放射性物質に限らない。我々は常日頃から、各種の汚染物質に取り囲まれて暮らしているではないか。違法軽油で走るディーゼル車が撒き散らす排ガスを毎日吸い込んでいる身からしてみれば、今さらそれに微量の放射性物質が加わったところで健康被害に大差はない。

7月4・5日有料試写会 なかのZERO小ホール
配給:グループ現代
(2003年|1時間56分|日本)
ホームページ:
http://www.g-gendai.co.jp/hibakusha/

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