福耳

2003/06/17 TCC試写室
人気脚本家の宮藤官九郎が初主演(?)したコメディ映画。
フリーターの青年が老人の霊にとり憑かれる。by K. Hattori

 人気脚本家の宮藤官九郎が、俳優業に専念したコメディ映画。人生に何の目標も目的もないままフリーター生活を送っていた青年が、たまたま働き始めた老人向けマンションで亡くなったばかりの老人の幽霊にとり憑かれしまう。老人はこの世にひとつの心残りがあるというのだが、それは同じマンションで暮らす美しい女性のことだった……。

 青年に取り付く老人を演じるのは田中邦衛。彼のこの世の未練となった美しい女性を演じるのは司葉子。オカマバーを営む老人マンションの住人に宝田明。他にも谷啓や坂上二郎、多々良純、千石規子など、出演者はかなり豪華。(しかも東宝色が強いような気がするなぁ……。)若手ではNHKの朝ドラ「さくら」でヒロインを務めた高野志穂が、施設で働く看護婦役で出演している。監督はこれがデビュー作となる瀧川治水。脚本は『うなぎ』や『赤い橋の下のぬるい水』の冨川元文。

 物語はファンタジーであり完全な絵空事だ。特に老人たちのエピソードはきれい事ばかりで、現実味はほとんどない。しかしこうしたウソっぽさは、宮藤官九郎と田中邦衛の二人羽織めいた掛け合い芝居の面白さで中和されてしまう。大きなウソを成り立たせるために、小さなリアリズムを積み重ねる方法もあれば、大きなウソの周りを小さなウソで埋め尽くし、ウソにウソを重ねて本当の世界を描く方法もある。この映画は明らかに後者を目指しているのだ。この映画では出演しているベテラン俳優たちが、虚構の世界の住人であることを十分に楽しんでいるようだ。

 この映画が空想だけの浮ついた話になっていないのは、「自分が何者かわかっていない若者が、ある出会いを通して自分自身と向き合い未来を模索していく」という青春ドラマとしての普遍性を持っているからだろう。これは脚本段階でしっかりと意識されているようで、その証拠に青年と同世代の看護婦とのエピソードについては、ファンタジーに走らずリアリティのある話を作ろうとしている。残念なのはこの看護婦に、演じている高野志穂が持つ生地の魅力以上の魅力が感じられないこと。彼女のためにもう少しエピソードがあればよかったと思うのだが、ここを余計に太らせてしまうと全体のバランスが難しくなるかもしれない。結局この部分を映画全体の添えものにすることで、この映画が成立している面があるのは否めない。これはちょっと残念に思う。

 見どころは宮藤官九郎の一人二役芸で、宝田明の店で女性二人にはさまれてふたつの人格が交錯していくあたりは思わず笑ってしまった。いい加減でチャランポランな青年を演じると、これほどいい加減でチャランポランに見える俳優も珍しい。貧相な体格や歯並びの悪さも、これはこれでひとつの財産と言っていいのではなかろうか。宮藤官九郎の外見的な頼りなさなしに、この映画の面白さは生まれなかったと思う。ちなみに福耳は特殊メイクのようだ。

9月13日公開予定 有楽町スバル座
配給:アルゴ・ピクチャーズ、シネマ・クロッキオ
(2003年|1時間50分|日本)
ホームページ:
http://www.fukumimi.jp/

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DVD:福耳
主題歌CD:昔出会った風(川島愛華)
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