ハリウッド★ホンコン

2003/06/03 松竹試写室
香港インディーズ映画の巨匠フルーツ・チャン監督の最新作。
ブラック・コメディらしいが切実すぎて笑えない。by K. Hattori

 『メイド・イン・ホンコン』で監督デビュー(※)して以来、非職業俳優を使ってドキュメンタリータッチの低予算映画を作ってきたフルーツ・チャン監督の最新作。物語の舞台は九龍ダイアモンドヒルにある巨大ショッピングセンター「プラザ・ハリウッド」に隣接する、バラック作りの貧民街ダイホム村。薄汚い細い路地が入り組んだ小さな世界では、そこでは焼豚の製造販売をしているチュウと息子たち(ミンとタイニー)や、恋人の恋人に出張売春をさせて暮らしている若いチンピラのウォンなどが暮らしている。

 ある日そこに、大陸からやってきたという若い娘トントンがやってくる。シュウの幼い息子タイニーと仲良くなり、しばしば店を訪れるようになるトントン。彼女が持ち込む花やいだ空気に、父親のシュウや兄ミンも心を動かされる。同じ頃、ウォンの電子メールアドレスに出張売春の案内が届く。相手はホンホンと名乗る若い女。最初は自分が彼女のマネージャーをして一緒に商売しようと考えたウォンだったが、すぐに彼女の天真爛漫な言動に魅了されていく。じつはトントンとホンホンは同一の女性。やがてウォンのもとには、ホンホンについて1通の警告状が届けられる……。

 フルーツ・チャン監督はデビュ作から一貫して、香港社会の変化や中国本土との関係をテーマに映画を作っている。『メイド・イン・ホンコン』で香港返還3部作を終えた後、第4作『ドリアンドリアン』では大陸出身の若い娼婦を主人公に「大陸から見た香港」を描いて見せた。今回の映画は舞台が香港に限定されているし、物語の主人公はシュウ親子やウォンなどの香港人だが、監督の中では『ドリアンドリアン』から引き続き「大陸から見た香港」という視点が生き続けているようだ。しかしそうした視点が、この映画ではわかりにくい。観ている側はジョウ・シュンが演じる上海女ではなく、貧しいダイホム村の人々に感情移入してしまうのではないだろうか。そうした場合、この映画は目も当てられないほど悲惨な話になってしまう。

 監督はダイホム村の人々に愛情のこもった視線を注いでいる。だがもう一方で、この村の住人たちの生活を戯画化し、コミカルに描こうともしている。そのための装置として、上海から来たトントン(=ホンホン)というトリックスターが活躍する。人気女優である彼女は、この映画の中で何をどう演じても汚れず無垢なままであり続け、生活のリアリティが積み重なったダイホム村を引っ掻き回す。もしこれが上手く行ったなら、この映画はひとりの少女に翻弄される香港人の悲喜劇として、面白い映画になったに違いない。

 ところがこの映画は、生活描写の生々しさにジョウ・シュン本人も巻き込まれてしまう。彼女はトリックスターという特権的な地位から、人々の平和な生活を脅かすトラブルメーカーの地位に引き摺り下ろされてしまうのだ。この映画は、後味が悪すぎる。

(原題:香港有個荷里活 HOLLYWOOD★HONG KONG)

※匿名の読者の方からフルーツ・チャン監督のデビュー作は『メイド・イン・ホンコン』ではなく、『大闌廣昌降』という未公開作品だという指摘を受けました。ただしこのあとは作品が続かず、『メイド・イン・ホンコン』まで数年のブランクがあるそうです。

7月12日公開予定 シアター・イメージフォーラム
配給・提供:メディアスーツ、博報堂
(2001年|1時間48分|フランス、香港、日本)
ホームページ:
http://www.mediasuits.co.jp/

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